2367人が本棚に入れています
本棚に追加
霊媒師おまけ、雷神号のその後の未来
『クッソーー! さっきからアッチに行ったりコッチに行ったり! ぜんぜん捕まえらんない! でも負けないからなっ!』
負けない、か。
良い心がけだ。
現場では心が折れたらそこで終わる。
どんなに苦しい場面でも、どんなに敵が強くても、絶対に負けない、絶対に折れない、そう心を強く持つ事が大事だと、昔主が教えてくれた。
霊力もある、技術もある、そして負けん気の強い人の子は、助走をつけて跳躍すると私に苦内を投げてきた。
指の間に挟んだ苦内は片手に3本、計6本が唸りを上げて、急所目掛けて狂いなく飛んでくる。
実に良い腕だ、一流と言っても過言じゃない。
だが詰めが甘い、ここぞという時きまって動きが雑になる。
素早く飛んで苦内を避けて、ジグザグにダッシュをすれば、彼の動きが一瞬止まる。
彼は私の行く手が掴めずに、だが勘が良いのか、すぐに見極め追って来た。
『待てーーー! とっ捕まえてワシャワシャしてやるーーー!』
ワシャワシャ……、またか。
どうも調子が狂う、この子はどこかおはぎに似ている。
懸命になればなるほど子供っぽいのだ。
そんな事が頭に浮かび、半瞬、笑ってしまったのがまずかった。
気が付けば彼は私のすぐ後ろ。
気配を感じたその直後、
『もらったぁっ!!』
と、飛びかかってきたのだ。
ガシイッ!!
ゴロゴロゴロゴロー!!
しがみ付かれて大地に転がり、途端、耳も鼻も尻尾も毛皮も、要は全身ワシャワシャされた。
『よく私を捕まえたな、翔』
四肢を絡めて私の頭をフゴフゴ嗅いでる17才の、頬をペロリと舐めてやれば、嬉しそうな顔をした。
『すごいだろ! 俺さ、俺さ、やっと雷神号と同じ速さで走れるようになったんだ! 今じゃ隊で1番の俊足だ! 褒めてくれ!』
50メートル、6秒ジャスト。
犬の足なら難もないが、人の足でこの速さは大したものだ。
初めて会った○○年前、翔は私に追いつけなかった。
だが毎日こうして、訓練だか遊びだか分からないじゃれあいが、彼の足を鍛えたのだ。
翔はゴロンと大地に寝ころび、私の腹を撫でている。
こうしてると、そのうちこの子は寝てしまう。
そうなれば私は毎度、背中に背負って連れ帰るのだが……こういう所もおはぎに似ている。
まったく困ったものだ。
案の定、翔がウトウトし始めて、そのまま眠ると思ったのだが……今日は、そうならなかった。
赤髪の隊長がこちらに向かってやってきて、大声を張り上げたからだ。
『ランナー! ガキじゃねぇんだからよ、寝るならちゃんと部屋で寝ろ! 毎回ボルトに運んでもらってんじゃねぇか。ボルト、おまえもランナーを甘やかすな。厳しくいけ、厳しく。まったく、素人はこれだから』
なにを持って素人なのかは分からないし、相も変わらず私の事を ”ボルト” と呼ぶのも分からない。
赤い髪の隊長は清水朋美。
黄泉の国の特殊部隊、その中でも長年エースであり続く、”バッドアップル” の隊長だ。
バッドアップルの隊員は翔も含めた27名。
その全員が元悪霊だというのだが、罪を償い禊を済ませ、各星々の悪霊達を滅して回る。
かくいう私もバッドアップルの隊員だ、ただし正式な隊員ではないが。
最初のコメントを投稿しよう!