第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

2/74
前へ
/2550ページ
次へ
駅を背中に真っ直ぐ100m。 男の足なら1分で到着するのがウチの会社、【株式会社おくりび】だ。 朝から気温は30度超え、額に汗して扇子でパタパタ扇ぎつつの出勤だ。 「おっはよーございまーす! あー涼しー!」 事務所に入るとエアコンの冷たい空気が心地良い。 ワイシャツだけの背中から、リュックをおろして両手を広げて涼をとる。 こうしていると汗が引くけど、本当だったらお姫をギュッと抱きしめたい。 推定6キロワガママボディは霊体だからヒンヤリだもの。 あの仔がいればエアコンいらず、すぐに涼しくなれるのに。 あー、早く虹の国から帰ってこないかなー。 「おはようございます。今日も暑いですねぇ」 そう言ってニコニコするのはユリちゃんだ。 モスグリーンのブラウスにコットンパンツ、長い髪を後ろでまとめて青いリボンをつけている。 服も髪もシンプルなのに、溢れる若さと透明感で眩しいくらいにキラキラだ。 むぅ……社長めぇ……こんなに可愛いユリちゃんをお嫁さんにするなんて、人生の運、ぜんぶ結婚に使ったな……その代償はおそらく高くつくはずだ。 「おはよう、ユリちゃん。あのさ、朝から突拍子もないコトを聞くようだけど、最近社長、道を歩いてて猫のウンチをよく踏まない?」 この質問にユリちゃんは、笑う事なく真面目な顔でこう言った。 「なんで知ってるんですか!? そうなんです、ココ最近よく踏んじゃうんです!」 やっぱりな、だと思った。 人生はこうやって帳尻を合わせるんだ。 となるとジャッキーさんは猫と犬、その両方を踏むのだろう。 腕を組んでウンウン頷き、僕が1人で納得してると、 『岡村くーん! モーニーン! 先日はお疲れさまでした。初のソロ現場はどうでしたか? 大変でしたか? でもうまくいったみたいですねぇ。顔を視れば分かりますよ』 先代キターーーーーーー!! 「おはようございます! おかげさまで初ソロ無事に終わりました。てか先代もユリちゃんも知ってたんでしょう? あの現場が僕の実家だってコト。詳細は行きの電車で【依頼フォルダ】見てくださいなんて言うもんだから、後から依頼者名と住所見てビックリしちゃいましたよ」
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加