第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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「先程は大変失礼致しました」 水渦(みうず)さんは淡々と頭を下げた。 続けて、さっき急に出ていったのは、更衣室まで忘れ物を取りに行ったと話してくれたが、手には何も持っていない。 たぶん……嘘なのだろうな、忘れ物というのは。 だが本人はそれで話を終わりにしたし、ユリちゃんも黙ったままだ。 若干空気が重た目で、女性陣の “なにも聞いてくれるな感” がハンパない。 事情が僕には分からないけど、たぶんコレ、突っ込んじゃいけないヤツだ。 気にはなるけど無理に聞いても仕方がないし、そういう事はしたくない。 微妙な空気が流れる中、始業を知らせるチャイムが鳴った。 それと同時に水渦(みうず)さんが書類を取り出し、ユリちゃんに精算業務を依頼する。 依頼されたユリちゃんは、席に座るとテキパキと処理を始めて、事務所の中はキーを叩く小さな音だけが聞こえていた。 …… ………… で、僕はというと。 自分の席で報告書と交通費精算の書類を書いていた。 むぅ……水渦(みうず)さんは家で書いてきたと言ってたよな。 僕もそうした方が良かったのだろうか……で、でもな、そんなコト言われてないし、キーマンさんも弥生さんも、他のみんなも会社に来てから作成してる。 だから僕もそれで良いと思ってたんだ。 や……もしかして、普段はそれでOKだけど、繁忙期の夏の間は時短の為に書いてくるのが常識です! とか……言っちゃう? だとしたら、僕だけのんびり会社で書くってあり得ない。 ああもう、繁忙期が初めてだから、そーゆーの分かんなーい!  …………ハッ! もしかして、水渦(みうず)さんが僕を無視をするのは、こういうのが原因なのかな? ”繁忙期だろ、空気読めっ!” ってコト?  ん……可能性はある。 そんなコトを考え出したら作業がちっとも進まない。 独り相撲でグダグダやっても解決には至らない。 だったら、直でそれを聞いてみたらどうだろう? どっちにしたって無視の理由を聞く気でいたんだ。 このあと彼女は次の現場に行くって言うし、聞くなら今しかないのでは? 自分の席から水渦(みうず)さんをチラリと見ると、パソコン画面を凝視中、多分メールを見てるんだ。 前に言ってた、出社したら周知文書を必ず読むって。 水渦(みうず)さんは仕事に対して真面目なんだよな。 色々難はある人だけど、こういう所は見習うべきだ。 そうだよ、先代も言ってくれたじゃないか。 僕はもう新人じゃない。 分からない事を分からないままにしちゃ駄目だ。 繁忙期のルールとか、分からなければすぐ聞いて、みんなと歩幅を合わせてさ、足を引っ張らないようにしなくっちゃ!
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