第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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◆ 会社裏手の駐車場。 そこには普段3台の車が停まっている。 1台はゴツゴツの銀の車体が恰好良い、ランサーエボリューションⅤ。 社長のソウルカーだ。 もう2台は手頃なサイズが丁度良い、燃費の良いコンパクトカー。 色は無難な白の社用車だ。 社長は通勤から現場まで、どこに行くにもランエボに乗る。 今ここに車がないのは、繁忙期で社長自ら現場に出ているからだ。 残る2台の社用車のうち1台は使用中(誰が乗っていったかは知らない)、残るは1台、この運転席に水渦(みうず)さんは迷う事なく乗り込んだ。 そして一切僕を見ずに、静かにエンジンをかける。 はぁ……これから車で2人きりかぁ。 水渦(みうず)さん、きっとなんにも喋らなそう。 狭い車内で気まずさマックスの予感だ。 てか少しは喋ってほしい、最低限現場の話でいいからさ。 だって僕、なんにも聞いてないんだよ。 現場はどこにあるのか、依頼者はどんな方なのか、依頼内容はどういったものなのか、……そういうの、僕が知らないってマズイでしょうよ。 とりあえず、腹を括って助手席側のドアを開け、「失礼します」と声かけしながら乗り込んだ。 が、予測通りに返事はなくて、代わり、前を見たままタブレットを渡された。 ああ……そういう事ね。 この中の【依頼フォルダ】を自分で読めと言いたいのだろう。 読めと言われりゃ読むけどさ、内容それで分かるけど、でもさ、そうじゃなくてさ、………………ん、まぁ……いっか、まずは読もう。 それでその後、現場の質問なり、無視をする理由なりを聞こう。 こんな調子で正直不安しかない。 だけどそんなの、依頼者にはまったく関係のない話だよ。 怖い思い、不安な思い、そういうのが限界で、決して安くない依頼料を支払ってまで霊媒師を呼んだのだ。 依頼を受けた以上、僕らはそれに応えなくてはいけない。 くだらない内輪のイザコザが原因で失敗なんてしたら……そう考えると怖くなる、そんな事にはしたくない。
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