第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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そんな事を考えながら、水渦(みうず)さんが何か言うのを待っていた。 こういう時の沈黙は、数秒が数分みたいに感じられ、篠原様も待たせているし答えを聞くのは諦めた方が良いかなと、そう思い始めた時だった。 水渦(みうず)さんは、長く息を吐きながら僕にこう言ったんだ。 「しました、」 え!? そうなの!? やっぱり僕がなにかをやらかしたんだ! でも心当たりがなんにもないよ。 この2か月ぜんぜん会ってなかったし、それどころか電話もラインもしてないし、接点が無さすぎだと思うんだけど、なのにどうして? 理由が知りたい。 「あの、僕は一体何をしたんでしょうか。何かしたならあやまりたいです」 記憶をマッハで辿ってみたけど、それらしきがやっぱりなくて、あ……でも1つ思い出した。 果たしてこれが関係するかは分からないけど、最後に会った2か月前。 おくりび事務所で水渦(みうず)さんと一緒の日があってさ。 その時、とある現場に水渦(みうず)さんと僕のツーマンセルで行くかと社長が聞いて、彼女はそれを断ったんだ。 ____神奈川の現場でも一緒でしたから、 ____しばらく一緒に行きたくないです、 と。 当時は深く考えなくて、そういうものかと流してしまった。 きっと僕が新人で、純粋に足手まといが嫌なんだろなと、それで終わりにしたんだよ。 そ、そんな単純な話じゃなかったのかな、あの日すでに僕に怒ってたのかな。 ダ、ダメだ、もう変な汗掻いて来た。 「別にあやまる必要はありません。きっと岡村さんに悪気はないのでしょう」 答えながら水渦(みうず)さんは車のエンジンをかけた。 これ以上は話さない、その意思表示なのだと思う。 でもさ、こんな言い方されたらますます気になっちゃうよ。 「悪気があるなしの問題じゃないですよ。僕が何かをしたんなら教えてください。理由が分からなければ、改善のしようがないもの。気まずい空気のまま現場でツーマンセルなんて……メンタル的にもキツイけど、仕事にも支障が出ます」 「ヤワなメンタルですね。霊媒師に向いてないんじゃないですか?」 「向いてないって……酷いな。気に入らない事があれば言ってくださいよ」 「言ってもどうにもなりませんし、言うつもりもありません」 「じゃあアレですか? 水渦(みうず)さんはそうやって1人でイライラしてるんですか? 原因は僕なのに、はっきり言わずに無視をするんですか? まるで子供じゃないですか」 「子供? 失礼ですね。私は25才です、立派な大人です」 「25才が聞いて呆れる。言いたい事も言わずに無視をするのは子供ですよ」 「岡村さんこそ大人とは思えません。白黒はっきりさせる事が正しいと思ってる。綺麗事ですね、反吐が出ます。はっきりさせれば時に大きな代償を支払う事になる。そういうの知りませんか? 考えが浅いんですよ、30才が聞いて呆れます」 「水渦(みうず)さんは物事を深く考えすぎだ。確かに白黒はっきりさせる事がすべてじゃない。世の中グレーの方が多いくらいだ。でもね、相手は僕なんですよ(・・・・・・・・・)水渦(みうず)さんが何を思い、僕の何に怒り、何にイライラしてるのか、そういうのぜんぶ言ってください。大丈夫です。水渦(みうず)さんが何を言っても代償なんか払う必要はない。僕が受け止めますから、」 狭い車内、僕と水渦(みうず)さんは声を大に言い合っていた。 現場の前に何してるんだ……と激しく思う。 だけど止まらなかった。 この人、なにをこんなにイライラしてるんだろう。 言葉がキツイのはいつもの事だ、でもね、何かが違う。 それが何かは分からないけど、なんだかとても心配になったんだ。
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