第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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「……………………受け止める、ですか」 たっぷりの間を置いて、水渦(みうず)さんは呆れたようにそう言った。 そして続ける。 「はぁ……、やはり岡村さんは考えが浅いですよ。よく考えもせず無責任な事を言うのですから」 「無責任ですか? どうして? 僕は本気で受け止めようと思ってます。僕に対する不満、それがどんなものだとしても、聞いたからって怒ったりしません。真摯に受け止めて、水渦(みうず)さんが嫌な思いをしないように改善したいと思ってます」 分かってほしいと思った。 言いたい事を我慢して、それで1人でイラついて、そんなのちっとも意味がない。 だからはっきり言ってほしい、本音で話して最後は笑って握手をしてさ。 そう、ジャッキーさん()でみんなでゴハンを食べた日みたいに、仲良くやっていきたいの。 水渦(みうず)さんは黙ったまんま、挑む目をして僕を見た。 結んだ口を微かに震わせ、だがその口をゆっくり開けると、そこから一気に捲し立てた。 「真摯に受け止め改善ですか……ご立派ですこと。ですが、ご立派過ぎて腹が立ちます。ねぇ岡村さん。貴方、私が何を言っても受け止めると言いましたよね。本当ですか? 本当に大丈夫ですか? 本当に受け止められますか? もっとよく考えた方が良いんじゃないですか? 撤回するなら今ですよ? 私が内に抱えてるもの、貴方に対して抱えてるもの、それは爆弾かもしれません。聞いてしまえば爆発します。私も貴方も肉片になるのです。そう、代償ですよ。それでも知りたいですか? それでも気持ちを受け止めて、……ほら、やっぱり顔が曇った、不安になったのでしょう? 怖くなったのでしょう? 良いんです、それが正解ですから。このくらいの脅しで怯むようなら ”受け止める” などと言わないのが賢明です。私の事は放っておいてください。そのかわり、この後は無視しません。仕事中、最低限の言葉は交わしましょう。そしてこの現場が終わったら、私は貴方にNGを出します。これが最後のツーマンセルです」 …… ………… 息つく間もなく。 水渦(みうず)さんは言いたい事を一方的に吐き出した。 僕はそれに圧倒されて、結局、口を挟む事が出来なかった。 水渦(みうず)さんは、この現場にいる間は無視をしないと言い、それが終われば、これから先僕と組むのはNGを出すと言う。 あまりにも早口で、あまりにも情報が多くて、僕は困惑した。 だけど……困惑したのはそれだけが理由じゃない。 彼女は僕を拒絶した、何度も何度も辛辣に。 それなのに、捲し立てた彼女の言葉の羅列には、辛辣以外の何かがあった。 そして同時、今朝の先代の意味ありげな言葉を思い出す、 僕の……勘違いだろうか? 僕の……自惚れだろうか? いや……でも………………………… 「岡村さん、シートベルトをしてください。篠原様のお宅へ向かいます」 頭の中の困惑は、水渦(みうず)さんの声に中断された。 そうだ……篠原様の所に行かなくちゃ。 ああ……こんなんじゃだめだ。 今は仕事に集中しよう。
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