第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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◆ ヒアリングのすべてが終わり、僕達は篠原邸を後にした。 一般道路を走る車内は朝と一転、あの沈黙が嘘のように言葉が飛び交っていた。 「岡村さん、ここから現場の別荘まで、道が混まなければ2時間もかからないうちに到着すると思います」 「分かりました、ありがとうございます。水渦(みうず)さん、ずっと運転させちゃってすみません。疲れないですか? 本当は僕が代わってあげられたらいいんだけど……恥ずかしながらペーパーなんです」 「お気になさらず。運転するのは好きなので苦になりません。それに志村さんと組む時もすべて私が運転です。なにしろ彼はフィギュアで現場に出ますから」 「あ、確かに。全長40センチじゃあ、さすがのジャッキーさんも運転出来ませんよねぇ。……って、本体では運転するのかな?」 「されるようですね。志村さんは両足共義足ですが、補助装置の着いた車に乗ってるそうです」 真っすぐに前を見たまま。 淡々とはしてるけど普通に話をしてくれる。 「そういえばさっきのヒアリング。篠原様が悪霊に首を絞められたって話をした時、水渦(みうず)さん、しきりに頷いてたでしょう? あれはどういう意味の頷きだったんですか? もしかして有益な情報だったりする?」 思い出して聞いてみた。 有益な情報なのか、それとも篠原様に同調したのか、その辺が分からなかった。 だからといって、あの場でそれを聞くのもねぇ。 ”この霊媒師、大丈夫か……?” なんて、篠原様に不信感を抱かれそうで、グッと我慢をしたんだよ。 僕の発した質問に、水渦(みうず)さんはすぐには答えてくれなかった……が、たっぷり数秒黙った後に、 「………………岡村さん、それ、本気で言ってます? それとも下手な冗談ですか?」 呆れ8割、困惑2割。 そんな顔で質問返しにあったんだ。 「え……っと、……あ、あれ? 僕、おかしな事言っちゃった感じですか……? や、だって! ギューッと首を絞めるのもグッグッグッて絞めるのも、それって悪霊個人のさじ加減というか、たまたまというか、そんな感じなのかなぁって思っちゃって……はは、ははは」 あまりのジト目にしどろもどろでそう言うと、水渦(みうず)さんは長い長いため息をついた。 「はぁ……………… ”期待の新人” が聞いて呆れます。本当に分からないのですか?」 「…………あの、その、すみません、さっぱり」 「はぁぁぁ…………そうですか……呆れます、脱力します、がっかりです。ですが今それを言っても仕方ありませんので説明します。あの情報で、篠原様の首を絞めた悪霊が、どの程度の霊力(ちから)を持っているかが、ある程度分かります」
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