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霊道。
霊の為の道。
死者があの世に向かって迷う事無く進めるように、眩く光り、春の陽だまりに居るような暖かさに包まれる。
その道は進めば進む程、現世への未練が薄まって逝くべき場所へと進む事ができるという。
その道に導かれ家族はみんな逝ってしまった。
すっかりと陽が落ちて真っ暗になった部屋の中。
崩れるように座り込んだユリちゃんは声を殺して泣いている。
どのくらい時間がたっただろうか?
沈黙を破ったのは社長だった。
「おい、ユリ。電気のスイッチどこだ?」
「……電気?」
鼻をズルズル啜りながら健気に答えるユリちゃんは、こう続けた。
「そこの部屋の入り口の壁のトコ。だけどスイッチ入れてもつかないよ」
「ああ? なんでだよ?」
「だって、まだ買い物行ってないから照明ないもん」
え?
そう言えば昼間みんなでケーキ食べた時も、テーブルがなくてキャリーバックを代わりにしたんだった。
言われてみれば今日1日、引っ越し業者はおろか、宅急便も来なかった。
何もない部屋の中、カーテンは? タンスは? 食器は? 着替えは?
まさか……丸腰?
僕は恐る恐る聞いてみる。
「ねぇ、ユリちゃん。荷物はいつ届くのかな?」
ユリちゃんは顔を上げ照れたように笑い、
「ベットとかタンスとか実家から送ってあるけど、届くのは明日だよ。照明はどうせ自分で付けられないから、こっちで買って取り付けまでしてもらおうと思ってたの。えへへ……だめ?」
うわーこの子めっちゃ大ざっぱだわ。
「いやぁ、ユリちゃんが不便じゃなければいいんだけど、真っ暗なまま布団もないのにここで寝るの? それにごはんは? あ! そう言えばガス屋さんも来てないからお風呂も使えないよね?」
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