第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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◆ 時刻は16時を過ぎた頃。 車を停めて外に出ると、途端、身体が汗ばんでくる。 まわりは木々に囲まれて、ジーワジーワと蝉が鳴く。 グルリと辺りを見渡せば、別荘以外に何もない。 別荘も、元は会社の保養所だったと聞いていたけど、その面影は見当たらない。 「ご申告によると、使わなくなった保養所が売りに出され、減築して改装されたそうです。それがまさか……ひひ……悪霊憑きだなんて思ってもみなかったでしょうねぇ」 僕の心を読んだのか、水渦(みうず)さんは別荘について語りだした。 心なしか、声が弾んでいるのだが……今の話でおかしいとこ……あったか? 黙ってそれを聞いてると、声は更に弾み出す。 「篠原様も奥様も、真面目そうな方達でしたよねぇ。篠原様、大企業の役職付きだったそうですよ。定年までコツコツ働き、リタイヤ後は夫婦で仲良く余生を過ごす。その為に大事な大事な退職金の半分を突っ込んだそうです。ひひ……なのに……ねぇ、」 そう言って、含みを持たせて僕を見た。 その顔はやけに機嫌が良さそうなのだが、僕は逆に気持ちが落ちる。 この人、何が言いたいんだ。 「ねぇ、岡村さん。例えばですよ? 私達がしくじったらどうなるのでしょう。悪霊達を祓えずに失敗したら。篠原ご夫妻はもう別荘(ここ)には来れなくなりますね。せっかく買ったのに、せっかく綺麗に改装したのに。怖くて手放すかもしれません」 待って、待ってくれ、言ってる意味が分からない。 ”しくじったら” ?  ”失敗したら” ? なぜそれを楽しそうに言うんだよ、おかしいよ、自分が何を言ってるか分かってるのか? 「もしそうなったら、あのご夫妻はどうなるのでしょうねぇ。老後の夢も希望も失って、無駄な大金使ってしまって、ひひひ……ひひ……散々ですよ。でも、良い勉強になるんじゃないですか? 真面目に生きても報われない、そういう事もあるんだと身をもって知る事が、」 「水渦(みうず)さん!!」 我慢の限界だった。 話の途中で大声上げてそれを遮る、……普段の僕なら絶対にしない事だ。 でもさ、聞くに耐えなかったんだ。 どうしてそんな事を言うの? どうしてそんな考えになるの? 篠原様も奥様もとても優しい人達だった。 ____いいんですよ、あやまらないでください、 ____今は夏でお忙しいのでしょう?  ____来てくれただけでもありがたいですよ、 お待たせしたにも関わらず、怒りもしないで気遣ってくれたじゃないか。 アナタだって、それにお礼を言っていた。 背筋を伸ばして礼儀正しく、不安に思う篠原様に寄り添っていたじゃないか。 あれは仕事上の演技だったの? 本心は、さっき言った酷い言葉がすべてなの?
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