第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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掃き出し窓の向こう側。 室内にいるであろうその男は、瞬きすらせずこちらを視てる。 一体いつからだ……? いつからそこにいたんだ……? 気配をまったく感じなかった。 不意に気がつき目が合って、途端……僕は全身粟立った。 あれは……生者じゃないよ。 放電をするまでもない、命のない異形の(もの)だ。 男の顔は深海魚を思わせた。 視開く両目はギョロリとしてて、眼球が、落ちそうな程に飛び出てる。 その眼球も生者ではあり得ない。 白目と黒目、その2色が反転し、黒色の眼球に黄ばんだ白い小さな瞳が左右に細かく揺れている。 鼻は無く、目のすぐ下に耳まで裂ける大きな口が、緩い弧を描いていた。 「…………水渦(みうず)さん、悪霊が……さっそく姿を現しました。……後ろを視てもらえますか? 窓の所に一体、異形がいます」 目線は異形に固定したまま水渦(みうず)さんにそう言うと、彼女は黙って後ろを向いた、……が、反応がない。 異形の姿は視えてるはずだ、なのに彼女は驚くでもなく淡々と、目線を窓に投げ続け…………その数十秒後。 今度は僕に振り返り、 「岡村さん、篠原様から預かっている鍵を用意してください。中に入りましょう」 それだけ言うと、さっさと前に歩き出す。 え、ちょっと待って、いきなり?  行くのは良いよ、それが仕事だもの。 だけどさ、そうじゃなくて、 「待ってください! 入る前に打ち合わせというか、中でお互いどう動くかを話しませんか? 簡単で良いんだ、神奈川の現場でも話したじゃないですか。行きの車でジャッキーさんが、”こういう流れで行きましょう” って話してくれて、僕達もそういうの、」 大股で後を追い、横に並んで訴えた。 水渦(みうず)さんは、すぐに返事はしなくって、代わり、長いため息をついた後、ピタリと止まって僕を見上げて、そして、 「話なら先程したと記憶しますが、岡村さんはお忘れですか? ”今回、岡村さんに如何なる事があったとしても、私は一切助けません。私の事も助けて頂かなくて結構です” と、言いましたよね。これで行間読めませんか? はっきり言わないと理解出来ませんか? 早い話が現場ではお互い別に動きましょうという事です」 能面顔でそう言ったんだ。 ああ……嘘だろ……この人と話していると消耗する。 気持がどんどん落ちていく。 「さっき……そう言ってましたよね。ちゃんと覚えてますよ。ただ……これは仕事だし、本気で言ってるとは思わなかったんだ。……ねぇ、水渦(みうず)さん。僕達はツーマンセルです。篠原様のご依頼を2人で完遂する為にやって来たんだ。……まだ窓の所に立っているけど、あんな異形が中に何体もいるとしたら、別行動より協力し合った方が良いに決まってるじゃないですか。それとも、わざと失敗するつもりですか? 悪霊を祓えなかったら篠原様はどうなるか、そんな事を言ってましたよね?」
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