第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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さっきのは冗談と思えない言い方だった。 本気でわざと失敗するつもりなのか? その為に、別行動を望むのか? 「はぁぁぁぁぁ………………」 僕が投げた問いかけに、水渦(みうず)さんは露骨に嫌な顔をした。 ため息はすこぶる長くて聞いてるだけで気が滅入る。 ストレスが蓄積されて頭の芯が締め付けられる。 能面顔に非難の色を厚くのせ、僕を見上げる水渦(みうず)さんは吐き出すようにこう言った。 「岡村さん、いい加減にしてください。はぁぁ……貴方と話していると消耗します」 な……! ”消耗します” って……それ、アナタが言う? 僕だっておんなじだ、消耗してる、ストレスめっちゃ溜まってる。  あんまりな言い分に言葉がすぐに出なかった。 口をパクパク、僕が動揺していると、水渦(みうず)さんは更に続けて言ったんだ。 「わざと仕事を失敗させる、そんな事をするはずがないじゃないですか。良い事なんてありません。スキルが低いとみなされて社内評価に響きます。そうなれば当然給料が下がります。少し考えれば分かる事ですよ。はぁぁ……冗談も通じませんか?」 ちょ、なにそれ……! 自分で言うのもアレだけど柔軟性はあるつもり、冗談は通じる方です。 ただ、言い方。 さっきの水渦(みうず)さん、目がガチだったし冗談に聞こえなかった。 クソ……! 言われっぱなしでなんだか悔しい……! 言ったる、言い返したる!  そう思うのに、それより先に水渦(みうず)さんの話の続きが始まった。 「それだけじゃありません。失敗すれば現場から撤退させられ、私の代わりに別の霊媒師が入る事になる、……そう、大倉さんが入る可能性もあるんですよ。そんな事……とてもじゃないけど耐えられません(ギリッ……!)。あの方だけには絶対に借りを作りたくないですから」 うわ……相変わらずの仲悪さんだ。 でもまぁ……こうやって聞いてみると、わざと失敗はなさそうだ。 はぁ……ため息つきたいのはコッチだよ。 冗談が冗談に聞こえないから、分かりにくいったらありゃしない。 ん……? という事はもしかして、僕と別行動って言ったのも冗談だったりする? めちゃくちゃ嫌そうに見えたけど、すっごい突き放されたけど、可能性はある、……なのでそれを聞いてみた。 「水渦(みうず)さんの冗談は上級者向けで難易度(こう)です。じゃあもしかして、”現場で僕らは別行動” これも冗談ですかね? だとすればムキになっちゃってすみません。僕はてっきり、」 “勘違いをしてたみたい” と言いかけたけど、 「違います、それは本気です」 能面顔の水渦(みうず)さんに、バッサリと斬り捨てられた。 その一言を聞いた時、 ………………プチッ、 僕の中でなにかが切れた。 で、 自分でも信じられない。 頭で考えたんじゃない、身体が勝手に動いてしまった。 僕は無言で水渦(みうず)さんの手を取って、握ったままで歩き出す。 ”手を繋いでいいですか?” なんて許可なんかとってない。 完全無許可。 水渦(みうず)さんは隣でなにやら騒いでいるけど、もう知らない。 この現場、ツーマンセルで行きますから。
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