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中は想像以上のお屋敷だった。
玄関がまず広い。
一人暮らしのワンルーム、僕の部屋より広そうで、「はぁ……」なんて間抜けに息を吐きながら、僕はキョロキョロ家の中を見渡した。
「すごいですね……」
そう言ったのは僕の隣の水渦さん。
彼女もキョロキョロ見渡して、心なしか圧倒されてるようだった。
「下世話な話、これだけの別荘……一体いくらくらいするんですかねぇ」
靴を脱いで家の中に上がりつつ、我ながらどうでも良い事を呟いた。
水渦さんは、そんな僕を呆れた顔で見上げると、
「くだらない事を……随分と余裕ですね。中に入ったらまず悪霊の気配を探ると言ってませんでした? はぁ……やっぱり別行動にしましょう。足を引っ張られるのは御免です」
若干戻った切れ味で僕を軽く斬り捨てた、……が、怯むもんか。
2か月振りで最初は少し戸惑ったけど、だいぶ調子が戻ってきたよ。
この人とうまくやるなら弱みを見せたらダメなんだ。
かと言って強気すぎてもダメだけど、オドオドしない、キツイ言葉に過剰に反応しちゃいけない、あくまでもフラットに、だけど冷たくならないように、それでもって彼女の話はキチンと聞いて…………って、なんだこりゃ。
取り扱いが難しい、これってめっちゃ大変じゃん。
そりゃあ分かっちゃいたけどさ、ここまで来ると逆におかしくなってくる。
はぁ……まったく、こんなに手のかかる女性は初めてだ。
あははは、水渦さんって懐かない野良猫みたいだな。
「水渦さん、いい加減諦めてください。手は離しません。この現場にいる間はこのままです。僕らはツーマンセルでしょ? 理由のない別行動は禁止です。それとも、手を離しても僕の傍にいてくれますか?」
こう聞いて、もしも「うん」と答えてくれたら、僕は手を離すつもりだった。
だけど彼女は口を閉ざしてそっぽを向いた。
はぁ……やっぱりね、そう簡単にはいかないか。
「まずは気配を探りましょう」
気を取り直し、玄関を上がった廊下で2人は黙って気配を探る。
生きた者の気配は……ない。
じゃあ死人の気配は……………………、
ゾワリ……
繋いだ手のひらがジットリ湿る、汗がじんわり滲みだす。
頭のてっぺんが、耳の後ろが、背中が、お腹が、太ももが、部分的に粟立った。
同時、水渦さんは上下左右と鋭い目線をあちこち飛ばし、そして最後に僕を見て、
「……奥のキッチン、西の寝室、東の風呂場、北は裏庭の池のそば、南はリビング外から視えた異形のいる部屋、……少なくとも5体はいるようですね」
気配を探るどころじゃない。
ピンポイントで霊の居場所を口にした。
この人……性格に難アリだけど、ハイスキルだ。
僕はと言えば、ゾワリとしたけど場所までは分からなかった。
「……岡村さん、どうされました? 顔色が優れないようですが」
水渦さんにそう聞かれ、僕はちょっぴりテンパリながら体裁を整えようとした時、
ガシャン……!
ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!
奥の……キッチンだろうか?
大量にガラスの割れる音が響き渡ったのだ。
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