第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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中は想像以上のお屋敷だった。 玄関がまず広い。 一人暮らしのワンルーム、僕の部屋より広そうで、「はぁ……」なんて間抜けに息を吐きながら、僕はキョロキョロ家の中を見渡した。 「すごいですね……」 そう言ったのは僕の隣の水渦(みうず)さん。 彼女もキョロキョロ見渡して、心なしか圧倒されてるようだった。 「下世話な話、これだけの別荘……一体いくらくらいするんですかねぇ」 靴を脱いで家の中に上がりつつ、我ながらどうでも良い事を呟いた。 水渦(みうず)さんは、そんな僕を呆れた顔で見上げると、 「くだらない事を……随分と余裕ですね。中に入ったらまず悪霊の気配を探ると言ってませんでした? はぁ……やっぱり別行動にしましょう。足を引っ張られるのは御免です」 若干戻った切れ味で僕を軽く斬り捨てた、……が、怯むもんか。 2か月振りで最初は少し戸惑ったけど、だいぶ調子が戻ってきたよ。 この人とうまくやるなら弱みを見せたらダメなんだ。 かと言って強気すぎてもダメだけど、オドオドしない、キツイ言葉に過剰に反応しちゃいけない、あくまでもフラットに、だけど冷たくならないように、それでもって彼女の話はキチンと聞いて…………って、なんだこりゃ。 取り扱いが難しい、これってめっちゃ大変じゃん。 そりゃあ分かっちゃいたけどさ、ここまで来ると逆におかしくなってくる。 はぁ……まったく、こんなに手のかかる女性(ひと)は初めてだ。 あははは、水渦(みうず)さんって懐かない野良猫みたいだな。 「水渦(みうず)さん、いい加減諦めてください。手は離しません。この現場にいる間はこのままです。僕らはツーマンセルでしょ? 理由のない別行動は禁止です。それとも、手を離しても僕の傍にいてくれますか?」 こう聞いて、もしも「うん」と答えてくれたら、僕は手を離すつもりだった。 だけど彼女は口を閉ざしてそっぽを向いた。 はぁ……やっぱりね、そう簡単にはいかないか。 「まずは気配を探りましょう」 気を取り直し、玄関を上がった廊下で2人は黙って気配を探る。 生きた者の気配は……ない。 じゃあ死人(しびと)の気配は……………………、 ゾワリ…… 繋いだ手のひらがジットリ湿る、汗がじんわり滲みだす。 頭のてっぺんが、耳の後ろが、背中が、お腹が、太ももが、部分的に粟立った。 同時、水渦(みうず)さんは上下左右と鋭い目線をあちこち飛ばし、そして最後に僕を見て、 「……奥のキッチン、西の寝室、東の風呂場、北は裏庭の池のそば、南はリビング外から視えた異形のいる部屋、……少なくとも5体はいるようですね」 気配を探るどころじゃない。 ピンポイントで霊の居場所を口にした。 この人……性格に難アリだけど、ハイスキルだ。 僕はと言えば、ゾワリとしたけど場所までは分からなかった。 「……岡村さん、どうされました? 顔色が優れないようですが」 水渦(みうず)さんにそう聞かれ、僕はちょっぴりテンパリながら体裁を整えようとした時、 ガシャン……! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! 奥の……キッチンだろうか? 大量にガラスの割れる音が響き渡ったのだ。
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