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両手を広げて僕らの間に割り入り、異形の霊は静かな声で、だが嬉々としてこう言った。
『なんとなく事情は分かったよ。キミ達は恋人同士、アベックなんだろう?』
「違います」
「チガウし」
『照れなくていい、視てれば分かるさ。アベックじゃなければ手を繋いでこんな所に来ないだろうからね』
「だから違います、」
「“アベック” って久しぶりに聞いたな……」
『え? 今はアベックって言わないの? 参ったな、年がバレてしまう。まぁ、若ぶっても視た目でバレちゃうか』
「視た目……? ……まったく分かりません」
「だ、だよねぇ(ヒソヒソ)、だって顔が深海魚……(コソコソ)」
『亀の甲より年の功、オジサンは分かったよ。キミ達はアベックだけど喧嘩中。視た所……男性の方が……えっと、キミのお名前は?』
「………………」
「あ、岡村です。で、こちらは水渦さん」
『ああ、教えてくれてありがとう。私は藤崎です。それで……と、岡村さんの方が水渦さんにホの字で、それなのに、何かやらかして彼女の機嫌を損ねてしまった。だから喧嘩をしてるんだ』
「見当違いも甚だしい……岡村さん、コイツ撃ってもいいですか?」
「ダメに決まってんだろ。それより今 ”ホの字” って言ったよね(ヒソヒソ)、そんなんウチの親だって言わないよ(コソコソ)。この霊一体いくつなんだろ……深海ビジュアル分かりにくぅ」
『とにかく早く仲直りしなさい』
異形の霊は “藤崎” と名乗り、まったくもって読みは当たってないけれど、僕らを心配してくれた。
調子が狂うな……別荘にいるのは悪霊じゃなかったのか?
なにか事情がありそうだけど……聞いてみるか。
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