第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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両手を広げて僕らの間に割り入り、異形の(ひと)は静かな声で、だが嬉々としてこう言った。 『なんとなく事情は分かったよ。キミ達は恋人同士、アベックなんだろう?』 「違います」 「チガウし」 『照れなくていい、視てれば分かるさ。アベックじゃなければ手を繋いでこんな所に来ないだろうからね』 「だから違います、」 「“アベック” って久しぶりに聞いたな……」 『え? 今はアベックって言わないの? 参ったな、年がバレてしまう。まぁ、若ぶっても視た目でバレちゃうか』 「視た目……? ……まったく分かりません」 「だ、だよねぇ(ヒソヒソ)、だって顔が深海魚……(コソコソ)」 『亀の甲より年の功、オジサンは分かったよ。キミ達はアベックだけど喧嘩中。視た所……男性の方が……えっと、キミのお名前は?』 「………………」 「あ、岡村です。で、こちらは水渦(みうず)さん」 『ああ、教えてくれてありがとう。私は藤崎です。それで……と、岡村さんの方が水渦(みうず)さんにホの字で、それなのに、何かやらかして彼女の機嫌を損ねてしまった。だから喧嘩をしてるんだ』 「見当違いも甚だしい……岡村さん、コイツ撃ってもいいですか?」 「ダメに決まってんだろ。それより今 ”ホの字” って言ったよね(ヒソヒソ)、そんなんウチの親だって言わないよ(コソコソ)。この(ヒト)一体いくつなんだろ……深海ビジュアル分かりにくぅ」 『とにかく早く仲直りしなさい』 異形の(ヒト)は “藤崎” と名乗り、まったくもって読みは当たってないけれど、僕らを心配してくれた。 調子が狂うな……別荘(ここ)にいるのは悪霊じゃなかったのか? なにか事情がありそうだけど……聞いてみるか。
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