第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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”仲直り!” とそればかりを繰り返す、年齢不詳の藤崎さん。 どう視ても悪い(ひと)には思えない。 僕の頭は疑問符だらけ、こうなりゃ直接聞くしかないよ。 「えっと……藤崎さん、いくつか質問してもいいですか?」 おずおずと言ってみる、……と、藤崎さんは、大きな口を横にビーッと伸ばしたあとに(たぶん……笑顔?)、明るい声でこう言った。 『ん? 私に質問? いいよ、どんな事かな?』 あ……アッサリOKしてくれた。 ちょっぴり視た目は深海魚(アレ)だけど、話す程に気の良い気さくなオジサンだ。 「あのですね、まず1つ目は……藤崎さんはいつから別荘(ここ)にいるんですか?」 疑問符がますます頭に増える中、まずは軽く、当たり障りの少ないコトを聞いてみた。 『いつからかって? んー、3年くらい前かなぁ』 そんなに前からいたのか……その頃はまだ別荘じゃなく、使われる事のなくなった無人の保養所だったはずだ。 なんだってそんな保養所(ところ)に来たんだろう。 「……藤崎さんが亡くなったのも同じ時期ですか?」 『うん、そうだよ。死んでからしばらく家族の傍にいて、49日を過ぎたあたりでここに来たんだ』 ふぅん……そうなんだ。 それは偶然? それとも保養所のコトを知ってて来たの? 「あの……差し支えなければ、なんでココに来たのか理由を聞いても良いですか?」 そう言うと、隣で立ってる水渦(みうず)さんが「差し支えがあっても答えてもらいますけど」なんて、オラつき気味に呟いた、…………あー、うん。 ちょっと黙りましょうか。 『来た理由か……深い意味は無いよ。ただ……昔、生きてた頃。この保養所は家族と何度か来た事があってね。ああ、そうだよ。当時勤めてた会社の保養所だったんだ。…………楽しかった……妻も子供も大喜びで「こんな所に泊れるなんてパパのおかげだね!」ってはしゃいでた……広い部屋、大きなお風呂。まわりは自然がいっぱいで、釣りをしたり虫を採ったり、夜は家族で星を見て……ああ……ああ……あの頃は本当に幸せだった、』 藤崎さんはそう言うと、白目と黒目が反転してる大きな目から、涙をボタボタ床に落としたのだ。
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