第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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立ったまま、肩を落として涙を流す。 藤崎さんは、なんだかとても小さく視えた。 元々大きな(ひと)じゃない。 背は僕よりも低そうだし、霊体(からだ)も薄くてヒョロリとしてる。 袖から出ている両の手は、枯れ木のようにシワシワで、ある程度の年齢が想像出来る……が、なんてったってお顔が深海魚なのだ、実年齢は分からない。 本人曰く『年がバレちゃう』とのコトだからそれなりなのだろう。 そして…… 藤崎さんは、別荘(ここ)が保養所として機能していた頃、その会社の社員さんだったんだ。 何度かご家族と来た事があると言っていた。 そしてとても楽しく幸せだったとも。 思い出の場所だからここに来たのかな? ん……きっとそうだろうな……ここで過ごした家族の記憶は大事な大事な宝物なのだろう。 それならなんで? そんな大事なこの場所で、篠原様に害を成すのはなんでだろう。 変えてしまったから? 篠原様は保養所を減築して建て替えた。 思い出を壊されたと思ったのだろうか……? それにしたって……僕はいまださめざめ泣いている藤崎さんを視た。 立ったまんまで背中を丸め、嗚咽を漏らして震えてる。 こんな姿を視ていると、誰かに対して攻撃なんか出来るのか? と思ってしまう。 どちらかと言えば、この(ひと)は攻撃をされる側じゃないだろうか。 僕は藤崎さんが泣き止むのを待っていた。 急かさず責めず、少しずつ事情を聞かせてもらえたらと思っていた。 だがしかし……この時僕はウッカリ失念してたのだ。 今回の相方が、水渦(みうず)さんである事を。 腕を組んで無表情。 泣いてる(ひと)をジッと視ていた水渦(みうず)さんは、淡々と抑揚無しにこう言った。 「なるほど。貴方は3年も前から此処に憑りついていたのですね」 刺を含んだ不意打ちに、藤崎さんは固まった。 僕はハラハラ焦ってしまい、思わず口を挟んでしまう。 「ちょっ、”憑りつく” なんてそんな言い方しなくても!」 すると彼女はキョトン顔。 遠慮も無しに藤崎さんを凝視して、そのあと僕に向き直り、 「言い方、何か間違ってました? 死して身体と切り離されて、そこから黄泉に逝くでなく、現世の、しかも他人の所有建物に居座っているのです。生者なら不法侵入で捕まります。ですが藤崎さんは死者なので ”憑りつく”、という表現が当てはまるの思うのですが」 と、さらに傷を深めるような解説をしてくれたのだ。
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