第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

37/74
前へ
/2550ページ
次へ
フーッ! フーッ! 閉じた歯の隙間から、藤崎さんは激しく息を吐いている。 少し前まで ”仲直り!” と、笑っていたのが嘘みたいな豹変だ。 水渦(みうず)さんは口の端を僅かに上げて、 「……篠原様に人生を狂わされたと。なるほど、怨恨という訳ですね」 聞いた理由に頷いた、……が、そこで話が止まってしまった。 え……っと、なんで恨んでいのるか、その理由は聞かないの? しばしの沈黙。 藤崎さんは激しく息を吐きながら、ジットリ涙を流している。 水渦(みうず)さんは、ポケットから会社のスマホを取り出して、なにやらポチポチタップをしてる。 こんな時にネットか……? 一体何を見てるんだろう。 いいや、水渦(みうず)さんが聞かないなら僕が聞くよ。 篠原様との間になにがあったのか、理由を知った上で、この先どうしたら良いかを考えたい。 こんなんしたら、きっとまた水渦(みうず)さんに怒られるんだろうな。 甘いだの、節操がないだの言われるんだ。 でも知らない、甘いかもしれないけど、でも、でも、そうじゃないと僕が納得出来ないよ。 「藤崎さん、さっき言ってた事……詳しく話してくれませんか? 篠原様と何があったんです?」 床に散らばるガラスの破片を踏まないように。 用心しながら半歩前に、藤崎さんの真正面に立った。 同時、後ろから短いため息が聞こえてきたが、無視する事にした。 ため息だけで止められてはいない。 きっとこれも ”個人の自由” の範囲内なのだろう(と思う事にした)。 『岡村さん……わ、私、もう話さない。だって余計なコトまで言っちゃうもの。家族の話……岡村さんも鬱陶しかったんだろう? 話の流れで言っちゃっただけ、ご、ごめんね、もう言わない、話さない、だから放っておいて、』 ああ……やっぱりだ。 藤崎さん、心閉ざしちゃったよ。 そりゃそうだ、あれだけバッサリ斬り捨てられたら『もういい!』ってなるわ。 いいさ、ここは僕があやまろう。 ツーマンセルってそういうもんだ。 …… ………… それから……僕は前職、お客様相談センターで培った謝罪スキルを発動させて、どうにかこうにか藤崎さんに許してもらう事が出来た。 もちろん、スキルにまかせた上辺の謝罪じゃない。 藤崎さんの気持ちは分かる。 僕もおんなじ、今日だけで何回斬り捨てられた事か。 けっこう堪えるのよね(ま、僕はもう慣れたけど)。 『ごめんね、ムキになっちゃって……さっき、水渦(みうず)さんに「あなたの家族に一切興味はありません」って言われたのが悔しかったんだ。大事な家族をバカにされたみたいでさ。……でも、もう良いよ。岡村さんがそこまであやまってくれたんだ。水に流すよ』 そう言って、藤崎さんは大きな口をビーッと横に伸ばしてくれた。 良かった……笑ってくれてホッとしたよ。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2366人が本棚に入れています
本棚に追加