第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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『それで……シノハラシュウジの事だよね。岡村さんだから話すよ。……あのね、シノハラと私は、昔……、』 藤崎さんが話を始めた時だった。 突如、キッチンの四方の壁から、シュバッっとヒトがすり抜け飛び出し、あっという間に僕の前に立ったんだ。 全部で4人、だけど生者じゃない。 だって全員異形の顔で、揃いも揃って深海魚。 そのうち1人は別荘(ここ)に来た時外から視えた、窓際の男性のようだった。 藤崎さんを守るように、彼らは僕をキッと睨むと…… 『藤さん、助けに来たよ!』 向かって右端、そこに立つ深海魚さんが震える声でそう言った。 『こ、こう視えて、む、昔はワルだったんだ! 逃げるなら今のうちだぞ!』 右から2番目の深海魚さん、自称 ”昔はワル” らしいけど、膝がガクガク笑ってる。 『顔はダメだ! ボデーにしな、ボデーに!』 その隣の深海魚さん、ちょ、それ、昭和不良の定型文、……でもって、すっごい内股なのも気になっちゃう。 『 ココは新人類が来る所じゃないぞ! お帰りはアチラ! ほな、バイナラ!』 左端の深海(ry 、“新人類” と “バイナラ” はネットで読んだ事があるぞーーー! 「えっと……ちょ……あの……」 昭和ワードがザックザク。 僕が呆気にとられていると、藤崎さんはアワアワしながら、 『みんな落ち着いて! だいじょうV(ブイ)! だいじょうV(ブイ)だからぁ!』 と、やっぱり昭和ードで止めている。 ……………………あーうん、賭けても良いや。 この霊達(ひとたち)、ぜったい悪霊じゃないよ。 それまで黙ってスマホを視てた、水渦(みうず)さんが顔を上げてコチラを視てる。 彼女は短く息を吐くと、 「ややこしいのが増えましたね。でも……イチニイサンシイ……これで全員揃った、………………捕まえる手間が省けました」 と独り言ち、そしてその後僕を見て言ったんだ。 「岡村さん、コイツら全員撃ってもいいですか? そうすれば任務完了。すぐにでも帰れますけど、」 アイター。 この人ホントにブレがない。 ある意味スゴイと感心するよ。 でもね、分かってると思うけど僕の答えはこうだ。 「ダメに決まってんだろ。全員集合、話はこれからです!」 大きな声でそう言うと……あれ? あれれ? 水渦(みうず)さん……今、笑った……? 一瞬の出来事で、しかもまた無表情に戻ってしまって、果たしてホントに笑ったのかが分からない。 でも、 「はぁ……まったく岡村さんは甘すぎます、呆れて物が言えません。 とりあえず……そうですね、車に行って食料を持ってきてください。なんだかおなかが空きました」 と、言い方は素直じゃないけど、彼らを撃たず話を聞く事に同意してくれたのだ。
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