第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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悪くない空気の中、まずは僕から「岡村英海(ひでみ)、30才、猫が好きです!」と自己紹介。 ついでに「こちらは水渦(みうず)さん」と紹介し(だって黙ってるんだもん)、そして、僕ら2人は篠原様から雇われた霊媒師である事を告げた。 それを聞いた藤崎さんは、目が零れそうなほど視開いて、 『ちょっとタンマ! そうだったの!? 私はてっきり、ただのアベックだと思ってたのに!』 と、コッチこそ「えぇ!?」と驚くビックリ発言。 や、待って、僕らのコト、本気で100(パー)ただのアベックだと(マネしてみた)思ってたんだ。 そりゃあね、僕らもハッキリ言ってないし(色々濃くてそれどころじゃなかった)、それにしたってチョットくらい何か変だと思わなかったん? 通りすがりじゃないし、鍵開けて入ってきたし、2人揃って幽霊視えるし、話の内容も……上げればキリがない。 すごいよ藤崎さん……この(ひと)もしや天然か、もしくはある種の逸材か。 そんな藤崎さんに対し、残る4人は霊媒師だとは知らずとも、胸騒ぎはしたらしい。 どこかの社名が描かれた車……こんな所に場違いなスーツ姿の2人組み……幽霊が視えるようだし驚かないし……しかも女の子の方は尋常じゃない圧がある……とてもじゃないけど遊びに来たとは思えない。 だからこそ、用心しながら陰から様子を視てたのに。 キッチンの藤崎さんはウッカリ食器を割っちゃうわ、普通に話をし始めちゃうわ、ハラハラの連続だったそうだ。 そのうちに藤崎さんが泣き出しちゃって、視るに視かねて助けに来たと言うのだが……やだ、良い霊達(ひとたち)じゃない。 そんなこんなで僕らに警戒してたけど、話してみれば感じが良いし、パンもゼリーも涙が出るほど旨かった。 あまりにおいしく感激しちゃって、最終的には『パンをくれる子にワルはいない』となったんだって(パンが僕らを繋いだ)。 とまぁ、雑談を挟んだところで、お次は死者チームの番だ。 端から順に自己紹介が始まったのだが、 『中沢(おさむ)です』 『庄司三男(みつお)です』 『中島(ひとし)です』 『伊藤順一です』 『藤崎茂です』 あまりにも簡潔だった。 その簡潔さを補うように、藤崎さんが静かな声で話し出す。 『…………あのね、私達ね、生きてた頃はみんな同じ会社に勤めていたの。部署はそれぞれ違っていたけど、年も近いし仲が良かったんだ』 そうだったんだ。 生者の頃から仲が良かったんだな。 でも……仲が良すぎないか? 死んでまでこんな所に一緒に居続けるなんて。 それはやっぱり篠原様が原因なんだろうな。
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