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藤崎さんは、ごくごく小さく息を吐き、
『今の時代、転職なんて珍しくもないんだろう? でもね、私達の時代は違った。倒産でもしないかぎり、1つの会社で定年まで働くのが当たり前と言われてね、もちろん私もそう思ってた。だから、仕事をしていて辛い事、悲しい事、納得のいかない事……そういうのがあったって、愛しい母ちゃんと可愛い可愛い子供の為に、”なにくそ! 負けるかコンナロー!” って頑張ってきたの』
こう、俯き気味に言ったんだ。
並んで座る他の4人も同じように俯いて、膝の上で拳を作ってすり合わせてる。
様子が変だ、……それに、全部過去形だし。
過去形は単純に生前の話だからだろうか……?
はぁ……と小さくため息ひとつ。
そんな藤崎さんに続き、中沢さんも話し出す。
『そう、すごく頑張ったんだ。残業は当たり前、休日出勤はしょっちゅう。家族の約束を何度すっぽかした事か。でも奥さんは責めなかったよ。「お父さんのおかげで生活が出来るの」って感謝してくれた。それが嬉しくてねぇ。家族に良い暮らしをさせるんだって、シャカリキで働いたんだ』
さらに続けて庄司さんも、
『俺は生涯独身で、養う家族は年を取った犬だけだった。だからゴローの為に頑張ったんだ、……あぁ……違うな、それだけじゃない、自分の為でもあったかな。会社に行けばみんなに会える、笑い合って、たまに飲みに行ったりしてさ。会社は私にとって居場所だったのよ』
そしてさらに中島さんも、
『”飲みにケーション” ってヤツだよね。月曜から一週間頑張って、花金はイケイケゴーゴー! アレがあったから次の週も頑張れたんだ』
伊藤さんも、
『みんなで釣り旅行も行ったじゃない! 海釣りで旅館に泊って、夜は温泉入って熱燗飲んで、会社の愚痴を言い合って。でも最後は決まって「定年まで頑張ろう!」……って、そう励まし合ったんだよね、』
____5人は次々、昔の話を口にした。
聞いた感じ、当時はきっと仕事に明け暮れ、たまの旅行や飲み会が楽しくて、家族やワンコを養うために頑張ったのだと、活気ある生前が想像出来た。
良い人生だったと……言えるんじゃないだろうか。
終身雇用が当たり前、そういう時代もあった事は知識として知っている。
今の時代じゃ夢のようなお話だ。
かく言う僕も転職組だし。
彼らはみんな定年まで働いて、その後に亡くなったのだろうか?
その答えは、このあとに口を開いた藤崎さんが教えてくれた。
彼は握った拳に力を入れて、自身の膝を何度か叩くと顔を上げ、悔しそうにこう言ったんだ。
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