第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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『だから……だからぁあぁ……! 私達はシノハラを許さない! ギャフンと言わせてやるのっ!』 藤崎さんは興奮のあまり声が裏返っていた。 シワの目立つ両の拳をブンブン振って、座りながら地団駄を踏んでいる。 他の4人も同様で、 『もちのろん! ギャフンと言わすんだ!』←中沢さん。 『血の小雨を降らせてやるぜぇ!』←庄司さん。 『ボデーだ! フックだ! ワンツー!』←中島さん。 『涙ちょちょぎれさせてやるぅ!』←伊藤さん。 こんな感じで興奮しきり、ダンダン床を鳴らしていた。 とりあえず……ここまでで分かったのは、この霊達(ひとたち)は篠原様を恨んでて、ギャフンと言わす気満々だという事だ。 気持ちは分からないでもない、……けど、釈然としない。 僕の知ってる篠原様とギャップがあるのはもちろんだけど、あと、他にもいくつか疑問点があるんだ。 この霊達(ひとたち)が別荘に……いや、当時は無人の元保養所か。 元保養所に来たのは3年前だと言っていた。 篠原様が土地と建物を買い取って改築したのはここ数か月の話だ。 たまたまここで篠原様と再会し、恨む気持ちが再燃したのだろうか。 それまではどうしてたの? その頃からギャフンを言わそうとしてたの? それからこれも分からない。 この5人の特徴とも言える異形の姿、というか、顔……! 深海魚を思わせる(うお)ったフェイスは、何がどうしてこうなったんだ? 最初、彼らと話す前はただの異形と思ってたんだ。 でもチガウ。 今まで僕が視た異形の(もの)は、妖怪化が進むあまりに自我はすっかり消えていた。 マジョリカさんの現場にいたブツブツだらけの巨峰野郎が良い例だ。 巨峰野郎は『うー』とか『あー』とか唸りはしたけど、言葉はまったく話せなくって意思疎通は不可能だった。 それがどうよ、この霊達(ひとたち)には自我がある。 昭和ードを炸裂しながら、泣いて怒ってあーじゃないこーじゃないと、豊かに言葉を紡いでるんだ。 こんなの、ヒトでなければあり得ない。 頭の中は疑問符が雨あられ。 ひとつひとつ潰していこうと、みなさんに質問しようとしたけれど、 『シノハラをギャフンと言わすぞー!』←藤崎さん、 『『『『合点承知の助ぇぇぇ!!』』』』←……と、昭和な仲間達。 盛り上がってて入る隙が視当たらない。 という事で、質問先を変えるコトにした。 せっかくのツーマンセル、しかも今回の相方は水渦(みうず)さんだ。 性格に難アリだけど、文句無しにスキルは高い。 霊力(ちから)もある、技術もある、知識もある、これはもう質問するしかないだろう。
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