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「あの、ちょっと質問良いですか?」
声をかけつつ横を向く。
L字のソファの短い方に、距離はあるけど僕らは並んで座っているから、声は小声で充分届くし、表情だって良く見える。
当然、僕の目には無表情、または不機嫌顔の水渦さんが映るものだとナチュラルに思っていたのに。
えっ?
水渦さん、笑ってる……?
見間違いか……?
ん……いや、やっぱり笑ってるよ。
どうしたんだ?
さっきも一瞬笑ったような気がしたけどさ、すぐにいつもの能面顔に戻ってしまった。
でも今は戻らない。
口を横に引き伸ばし、時折「ひひ……」と声を漏らして笑ってるんだ。
ちょ、どうしたの?
なにがおかしいコトあった?
急な笑顔に僕のココロは動揺中。
や、だってさ、水渦さんが笑うなんてレアじゃない。
基本、笑わない人なのだ。
普段の彼女は無表情か怒っているか、その2択でコトが足りる。
それなのに、
「…………ひひ……ひひひ……」
まだ笑ってるよ。
えっと……えぇ?
「あの……水渦さん?」
恐る恐る声をかけてみた(笑顔の人に緊張するのはじめて)。
すると彼女は僕を見て、
「なんでしょうか? ……ひひ、」
淡々と返事をするけど(通常運転)、小さく笑いが漏れていた(予期せぬエラー)。
「や、その、えっと、……なんで笑ってるのかなーって。いや、良いんですけどね、笑うって良いコトだし、でもいきなりだったから、」
「あぁ、その事ですか。大した事ではありません。ただ、……ひひひ、あまりにもおかしくて……ひひっ! し、失礼、ひひ……ひひひ……!」
堪え切れなくなったのか、水渦さんは声を大に笑い出す。
その声に僕と、それから幽霊のみなさんも一緒になって驚いた。
彼らは顔を視合わせて、水渦さんをチラチラ視ながらヒソヒソやっていたのだが、5人の中でもイケイケゴーゴー、天然疑惑の藤崎さんが代表してこう聞いた。
『なにがそんなにおかしいの……? おかしいコト……あった? それとも水渦さんは若い子だから、箸が転がってもおかしいのかな?』
ん? 箸のネタが分からないけど、これも昭和ードか?
なんてコトを考えながら聞いていた。
水渦さんは元ネタを知ってか知らずか、ひとしきり笑った後にこう言ったんだ。
「箸は関係ありません。私がおかしく感じたのは貴方方の言動です。”シノハラをギャフンと言わせる” 、ですか。気合十分ではないですか。その気合いで篠原様の首を絞め殺害しようとしたのですね、」
笑いから一転。
鋭い目付きで首を絞めた件を口にする、……と、ここで5人が一斉に慌てだし、
『ま、待ってくれ! 確かに首を絞める真似事はした! でも殺そうなんて思ってない!』
『そうだそうだ! そんなの犯罪じゃないか! どんなに恨んでいてもその一線は越えないよ!』
『脅かしたかっただけ! 人の命を奪うなんて大それた事する訳ない!』
『それを越えたら家族に顔向け出来ない!』
『そもそも! 命を奪ったらシノハラも幽霊になるじゃないか! コチラ側に来てほしくないよ!』
冤罪を主張した。
それを聞いた水渦さんはまた笑い、……てか笑い過ぎ、ひーひー言って咳きこんでるよ。
で、その咳がおさまると、目尻の涙を指で拭って言ったんだ。
「そうですか。まぁ殺意があってもなくても、そこに興味はありません。私が興味を持ったのは、笑ってしまったのは、貴方方が盛大な勘違いをしてるからです。貴方方の上司であった ”シノハラシュウジ” と ”篠原修二様”、この2人は別人ですよ」
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