第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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「あの、ちょっと質問良いですか?」 声をかけつつ横を向く。 L字のソファの短い方に、距離はあるけど僕らは並んで座っているから、声は小声で充分届くし、表情だって良く見える。 当然、僕の目には無表情、または不機嫌顔の水渦(みうず)さんが映るものだとナチュラルに思っていたのに。 えっ? 水渦(みうず)さん、笑ってる……? 見間違いか……? ん……いや、やっぱり笑ってるよ。 どうしたんだ? さっきも一瞬笑ったような気がしたけどさ、すぐにいつもの能面顔に戻ってしまった。 でも今は戻らない。 口を横に引き伸ばし、時折「ひひ……」と声を漏らして笑ってるんだ。 ちょ、どうしたの? なにがおかしいコトあった? 急な笑顔に僕のココロは動揺中。 や、だってさ、水渦(みうず)さんが笑うなんてレアじゃない。 基本、笑わない人なのだ。 普段の彼女は無表情か怒っているか、その2択でコトが足りる。 それなのに、 「…………ひひ……ひひひ……」 まだ笑ってるよ。 えっと……えぇ? 「あの……水渦(みうず)さん?」 恐る恐る声をかけてみた(笑顔の人に緊張するのはじめて)。 すると彼女は僕を見て、 「なんでしょうか? ……ひひ、」 淡々と返事をするけど(通常運転)、小さく笑いが漏れていた(予期せぬエラー)。 「や、その、えっと、……なんで笑ってるのかなーって。いや、良いんですけどね、笑うって良いコトだし、でもいきなりだったから、」 「あぁ、その事ですか。大した事ではありません。ただ、……ひひひ、あまりにもおかしくて……ひひっ! し、失礼、ひひ……ひひひ……!」 堪え切れなくなったのか、水渦(みうず)さんは声を大に笑い出す。 その声に僕と、それから幽霊のみなさんも一緒になって驚いた。 彼らは顔を視合わせて、水渦(みうず)さんをチラチラ視ながらヒソヒソやっていたのだが、5人の中でもイケイケゴーゴー、天然疑惑の藤崎さんが代表してこう聞いた。 『なにがそんなにおかしいの……? おかしいコト……あった? それとも水渦(みうず)さんは若い子だから、箸が転がってもおかしいのかな?』 ん? 箸のネタが分からないけど、これも昭和ードか? なんてコトを考えながら聞いていた。 水渦(みうず)さんは元ネタを知ってか知らずか、ひとしきり笑った後にこう言ったんだ。 「箸は関係ありません。私がおかしく感じたのは貴方方の言動です。”シノハラをギャフンと言わせる” 、ですか。気合十分ではないですか。その気合いで篠原様の首を絞め殺害しようとしたのですね、」 笑いから一転。 鋭い目付きで首を絞めた件を口にする、……と、ここで5人が一斉に慌てだし、 『ま、待ってくれ! 確かに首を絞める真似事はした! でも殺そうなんて思ってない!』 『そうだそうだ! そんなの犯罪じゃないか! どんなに恨んでいてもその一線は越えないよ!』 『脅かしたかっただけ! 人の命を奪うなんて大それた事する訳ない!』 『それを越えたら家族に顔向け出来ない!』 『そもそも! 命を奪ったらシノハラも幽霊になるじゃないか! コチラ側に来てほしくないよ!』 冤罪を主張した。 それを聞いた水渦(みうず)さんはまた笑い、……てか笑い過ぎ、ひーひー言って咳きこんでるよ。 で、その咳がおさまると、目尻の涙を指で拭って言ったんだ。 「そうですか。まぁ殺意があってもなくても、そこに興味はありません。私が興味を持ったのは、笑ってしまったのは、貴方方が盛大な勘違いをしてるからです。貴方方の上司であった ”シノハラシュウジ” と ”篠原修二様”、この2人は別人ですよ」
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