第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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「ああ、大した事ではないですよ。今回ヒントがたくさんありましたからね。……というより岡村さん、この仕事を長く続けたいなら、洞察力を鍛えた方が良いですよ。霊の言う事を鵜呑みにしたら駄目なんです。単純に嘘をつく輩もいますけど、死して月日が流れれば、霊の記憶は曖昧になりがちです。嘘をつくつもりは無くとも、誤った記憶を信じ込んでる場合もあります」 「なるほど……」 「余計な話をするくらいなら、もっと観察してください。霊の表情、話し方、クセ、話の内容、何に拘り、何に執着してるのか。すべての情報を拾ってください、そして正しく組み立ててください。そうすれば本質が視えてきます。それは年齢だけではありません。善霊か悪霊か、その区別もつきますから」 「情報収集と組み立てか……、」 「そうです。本来なら、そんな事をしなくても霊視をすれば簡単です。が、現場で霊と対峙する中、悠長に霊視が出来ない事も多々あります。それを洞察力で補うのです」 僕は……水渦(みうず)さんの話を目が覚める思いで聞いていた。 彼女の言葉は厳しくて、辛辣で、容赦がなくて、斬れ味抜群で……って、キツイのばっかだな、……ま、すべて本当の事だけど、でもさ、そうは言っても勉強になるよ。 僕はそろそろ ”新人だから” と言えなくなりつつある訳で、こういうのを教えてもらえるのはありがたい事なのだ。 積み重ねてきた経験値から得た知識、黄金よりも価値がある。 …… …………じゃあ、せっかくだから、もっと聞いちゃおうかな。 「アドバイスをありがとうございます。洞察力、これから頑張って鍛えます。それで……ねぇ、水渦(みうず)さん。僕ね、腑に落ちない事があるの。 霊達(かれら)は、篠原様をシノハラさんだと思い込んでいたんだよね。その理由としてはフルネームが同じ事、霊達(かれら)曰く背格好が似てる事……って言ってたけど、篠原様とシノハラさんって顔も似てるのかな? そんな偶然あるのかな? それと、今の60代って昔の60代よりも若々しいじゃない。篠原様を視て自分達より年上のシノハラさんに間違えるって……考えにくくない?」 僕の中で密かに引っ掛かっていた事だ。 背格好はまだ分かるけど、顔まで似てる偶然は出来すぎじゃないのかな。 名探偵はその辺をどう考えているんだろう……と思ったが、ぶつけた疑問に水渦(みうず)さんは即答だった。
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