2367人が本棚に入れています
本棚に追加
ベストな策は成仏だと言っといて、肝心要の【光の道】が呼べない僕を、水渦さんは呆れた顔で凝視した。
「はぁぁぁぁ……【光の道】が呼べなくて、どうやって霊達を黄泉に送るんですか。私はてっきり、会ってなかったこの2か月で呼べるようになったものだと思っていたのに。ガッカリです、脱力しました、成仏は諦めるしかありません。かと言って、霊達を現世に留めれば、岡村さんが言った通りに不幸になるのが視えています。そこまで悪さをしていないのに、それはさすがに同情します。仕方ないですね。こうなったら私がまとめて滅しましょう、楽にさせてあげるのです。心配ご無用、苦しまないよう一発で決めますから」
言うが早いか彼女の右の両五指は、蒼い霊力がバチバチ弾け、電気の花を咲かせてる……って、ちょちょちょちょーッ!
「ストップー! なに言っちゃってんのー!? はいはいはい、今すぐ手ぇ降ろして! 霊矢引っ込めて! あぶないモノはナイナイしてっ!」
慌てた僕は一歩前に、水渦さんの両手を掴んで霊矢を封印。
横を視れば、霊達は固まり団子になってガクブルしてる。
そりゃそうか、同じ部屋にいるんだもん。
僕らの話も聞いてたろうから、不安になっているのだろう。
と、とりあえず、霊達を安心させなくちゃ。
「あの、お騒がせしてすいません。ダイジョブですよ、水渦さんが言ったコト、”楽にさせる” とか ”一発で仕留める” とか、本気じゃないですから、冗談ですから」
ピカーッ!
先代バリのスマイルで ”大丈夫、怖くないよ” と宥めていたのに、
「いえ、冗談ではありませんが、」
と真面目な顔で壊しにかかる。
水渦さん、ちょっと黙りましょうか。
「と、とにかく! 僕はね、みなさんに成仏してもらいたいの。聞いてたでしょう? このまま現世に留まれば、先は悲惨な末路になります。ちゃんと成仏して、黄泉の国に逝って、心穏やかに暮らしてほしいんだ」
成仏……(ザワ……)
黄泉の国……(ザワザワ……)
僕の話に霊達はざわめき、互いの顔を視合っていたが、やがておずおず、藤崎さんが小さな声でこう言ったんだ。
『…………成仏か、私達もね、まったく考えなかった訳じゃないの。いつかは……旅立たなくちゃいけないって、そう思ってた。ただ……生きてた頃、リストラで苦労して、定年する年になってもアルバイトを続けなくちゃいけなくて……まぁ、それも家族の為だと頑張ったけど、年には勝てずにとうとう死んで、なんとなく思い出深い保養所に足が向いてしまって、それで……ははは、似たような事を考えた仲間達と再会してさ。懐かしくて嬉しくて楽しくなって、気が付いたら3年も月日が経っていた』
ははは、なんて自虐気味に笑いながら、最後は俯き黙ってしまった。
その後を引き継いだのは中沢さんだ。
『本当に楽しかったよ。毎日毎日笑って過ごした。去年くらいかな、みんなでおしゃべりする中で、そろそろ揃って成仏するかと、そんな話が出始めたんだ。成仏したって一緒にいるし、これからも仲間だし、不安もあるけど思い切って旅立とうと思った頃に……シノハラと篠原さんを間違えてしまったのだろうね』
最初のコメントを投稿しよう!