第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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ベストな策は成仏だと言っといて、肝心要の【光の道】が呼べない僕を、水渦(みうず)さんは呆れた顔で凝視した。 「はぁぁぁぁ……【光の道】が呼べなくて、どうやって霊達(かれら)を黄泉に送るんですか。私はてっきり、会ってなかったこの2か月で呼べるようになったものだと思っていたのに。ガッカリです、脱力しました、成仏は諦めるしかありません。かと言って、霊達(かれら)を現世に留めれば、岡村さんが言った通りに不幸になるのが視えています。そこまで悪さをしていないのに、それはさすがに同情します。仕方ないですね。こうなったら私がまとめて滅しましょう、楽にさせてあげるのです。心配ご無用、苦しまないよう一発で決めますから」 言うが早いか彼女の右の両五指は、蒼い霊力(ちから)がバチバチ弾け、電気の花を咲かせてる……って、ちょちょちょちょーッ! 「ストップー! なに言っちゃってんのー!? はいはいはい、今すぐ手ぇ降ろして! 霊矢引っ込めて! あぶないモノはナイナイしてっ!」 慌てた僕は一歩前に、水渦(みうず)さんの両手を掴んで霊矢を封印。 横を視れば、霊達(かれら)は固まり団子になってガクブルしてる。 そりゃそうか、同じ部屋にいるんだもん。 僕らの話も聞いてたろうから、不安になっているのだろう。 と、とりあえず、霊達(かれら)を安心させなくちゃ。 「あの、お騒がせしてすいません。ダイジョブですよ、水渦(みうず)さんが言ったコト、”楽にさせる” とか ”一発で仕留める” とか、本気じゃないですから、冗談ですから」 ピカーッ! 先代バリのスマイルで ”大丈夫、怖くないよ” と宥めていたのに、 「いえ、冗談ではありませんが、」 と真面目な顔で壊しにかかる。 水渦(みうず)さん、ちょっと黙りましょうか。 「と、とにかく! 僕はね、みなさんに成仏してもらいたいの。聞いてたでしょう? このまま現世に留まれば、先は悲惨な末路になります。ちゃんと成仏して、黄泉の国に逝って、心穏やかに暮らしてほしいんだ」 成仏……(ザワ……) 黄泉の国……(ザワザワ……) 僕の話に霊達(かれら)はざわめき、互いの顔を視合っていたが、やがておずおず、藤崎さんが小さな声でこう言ったんだ。 『…………成仏か、私達もね、まったく考えなかった訳じゃないの。いつかは……旅立たなくちゃいけないって、そう思ってた。ただ……生きてた頃、リストラで苦労して、定年する年になってもアルバイトを続けなくちゃいけなくて……まぁ、それも家族の為だと頑張ったけど、年には勝てずにとうとう死んで、なんとなく思い出深い保養所(ここ)に足が向いてしまって、それで……ははは、似たような事を考えた仲間達と再会してさ。懐かしくて嬉しくて楽しくなって、気が付いたら3年も月日が経っていた』 ははは、なんて自虐気味に笑いながら、最後は俯き黙ってしまった。 その後を引き継いだのは中沢さんだ。 『本当に楽しかったよ。毎日毎日笑って過ごした。去年くらいかな、みんなでおしゃべりする中で、そろそろ揃って成仏するかと、そんな話が出始めたんだ。成仏したって一緒にいるし、これからも仲間だし、不安もあるけど思い切って旅立とうと思った頃に……シノハラと篠原さんを間違えてしまったのだろうね』
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