第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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外はすっかり暗くなっていた。 時刻は夜の10時過ぎ。 僕達は広い庭の真ん中で、水渦(みうず)さんが道を呼ぶのを待っていた。 外に出る前、霊達(かれら)に聞いたのはこの3年間の事だ。 人が命を終えた時、善霊ならば【光の道】が迎えに来る。 その道にすぐには乗らず見送ったとして、その後の3年は定期的に迎えに来てくれるのだが、 『うん、しょっちゅう来てた。ピカピカ光って空から降りてくるの。道というか橋というか、とにかくドッヒャーってなるくらい大きいんだ。きっと(アレ)に乗って歩いて逝けば成仏出来るんだろうと思ってたけど……現世(ここ)にいるのが楽しくて逝かなかったの。そうこうしてたら、ここ最近は来なくなっちゃってね』 手ぶり身振りの藤崎さんの話、これを聞いてホッとした。 定期便は【光の道】だったのだ。 それはすなわち、黄泉の国が彼らを善霊と判断している証拠。 大丈夫だとは思ってたけど、これでさ、道を呼んでさ、来たのが【闇の道】だったら目も当てられないじゃない。 ソワソワしながら固まる5人を待たせたまんま、僕は水渦(みうず)さんの傍に行く。 ソワソワは僕もおんなじ。 だって、これから【光の道】がやって来るのだ。 道を呼ぶのはこれまでに2回視た事がある。 埼玉の廃病院では弥生さん、神奈川の黒十字様宅ではジャッキーさん。 呼び方は2人それぞれ違うものだった。 今回、水渦(みうず)さんはどうやって呼ぶのだろう。 「あの、傍で視てて良いですか? 勉強させてください」 言いながら一歩前に、特に拒否する言葉もないからOKってコトだろう。 水渦(みうず)さんは両手両五指、慣れた手付きで絡めだし、あっと言う間に何かを構築したのだが……これなんだ? 四角い……紙みたいに視えるんだけど。 説明もなにもない、淡々と作業を進めてる、今なにをしてるかサッパリ分からん。 僕は我慢が出来なくて、横から覗いて聞いてみたんだ。 「何を構築したんです?」 この質問に水渦(みうず)さんは、 「便箋です」 とだけ答えると、続けて印を結びだし、お次はペンを構築させた。 「便箋とペン……誰かにお手紙を書くんですか?」 頭にハテナを量産させてそう聞くと、水渦(みうず)さんはコクンと小さく頷いた、……え? マジでお手紙? 頭のハテナがさらに増え、僕がポカンとしていると、水渦(みうず)さんはココでようやく説明をしてくれた。 「黄泉の国の【光道開通部(こうどうかいつうぶ)】に手紙を書きます。現世(こちら)から送り出したい死者がいる事、その死者の人数、性別、年齢、私の判断では善霊である事……などです」 へぇ……そうなんだ。 そゆの書くんだ。
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