第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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「書き終わりました」 水渦(みうず)さんはそう言うと、突然自身の小指を噛んだ。 時間にすれば数瞬だけど、口をはなした指先からは、ビーズ大の血の玉がせり上がる。 「なにやってんの! 血が出てるじゃない!」 切れる程に噛んだのかと、慌ててハンカチを出したのだが、 「最後の仕上げです」 と僕を制した水渦(みうず)さんは、血のビーズを便箋に押し当てた。 なに……してるの? 手紙に血が着いちゃうよ…… 真意が分からず固まってると、 「これは血判です。便箋(ここ)に書いた全ての事に嘘偽りはありませんという証明のようなものです。いつもこうして、私の署名に重ねて押印します」 な、なるほど……そういう事だったのね。 血判なんて初めて視たからビックリしたよ。 はぁ……本当に、霊媒師(ひと)によってやり方は全然違うんだな。 「それで、このお手紙をどうやって黄泉の国へ届けるんですか? まさか黄泉と現世を結ぶ郵便配達の方がいるとか?」 冗談めかして言ってみたけど、僕としてはそうなら良いなと思っちゃう。 だってさ、黄泉と現世、宇宙を跨いで手紙を運ぶ、……なんて、すごいロマンチックじゃない。 たとえばだけど、風呂敷いっぱい手紙を詰めて、それを背負ってテチテチ走る三尾の猫又……ヤバ……めっちゃ萌える……! 延々広がる妄想を止めるべく、深呼吸して空を見た。 視界に映るは天に伸びる豊かな枝葉。 その隙間から、ピカピカの満月が見えた。 満月のまわりにはたくさんの星屑が音もなく瞬いている。 綺麗だな、……こんな夜なら黄泉の国まで楽しい道中になりそうだ。 …… ………… シュババババババババ! 手指の動きが溶けて視えない。 そのくらいの早さでもって、印を結んだ水渦(みうず)さん。 直後、彼女の手から蒼い火花が激しく散って、眩い光に目が眩んだ半瞬後、なにかが構築されたのだが…………なんだこれ……いや、この子(・・・)? 「どうやって手紙を黄泉に届けるか、さっきそう聞きましたよね? 手紙はコレ(・・)につけて飛ばします」 胸の高さに上げた腕。 肘から下の前腕部に…………鳥? ……だよね、うん、鳥が腕にとまってる。 鳥の子は、街でよく見るカラスくらいの大きさだ。 けど色が違う。 頭から背中にかけては濃いグレー。 お腹側は白いけど、首から下は黒のシマシマ模様になっている。 くちばしは紺、その根本と目のまわりは明るい黄色で、艶のある黒い瞳は宝石みたいに美しい。 ce66600c-b0d6-4ca3-9048-6aee449853c9 エイミーの妄想の中の宇宙郵便の大福です(*´▽`*) 2022年11月12日挿絵追加です
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