第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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「先代、そんな事を言ったんだ……確かに、動物と暮らすと毎日楽しくて幸せになりますもんね。いい考えだと思うな。あ、でも、リアルの動物にしないで式神にしたんだ。ま、どっちでも可愛いけど」 そうだよ、命があってもなくても関係ない。 一緒にいればどんな子だって家族だもん。 「リアルの動物は選択肢にありませんでした。私に世話は出来ませんし、そもそも、住んでるアパートはペット禁止ですから。ですが先代に『だったら、今度の式神を動物にしなさい』と言われまして現在に至ります。ま、ヒトと違って余計な話をしないので気に入ってますが、」 言いながら、水渦(みうず)さんは鳥の子に目配せをした。 するとバサッと腕からはなれ、広げた羽を高速ではばたかせると、そのまま宙にとどまった。 わ! すご! これアレだ、ヘリコプターが空中で静止するのと同じヤツ! 知ってる! ホバリングって言うんだよね! ホバリングの鳥の子は、おもむろに右のアンヨを水渦(みうず)さんに突き出した。 綺麗な黄色で細っこい、そのアンヨに血判付きのお手紙をクルクル巻きつけ結んでやると、 『キー! キーキー!』 高らかにこう鳴いて、振り向きもせず一気に空へ飛び立った。 「えぇ!? 逝っちゃったの!? いきなりすぎない!? 僕、”逝ってらっしゃい” も ”気を付けて” も言ってないのに! てか、水渦(みうず)さんも言ってないじゃん!」 無駄な事と知りつつも、その場でピョンピョン跳ねながら、遠い空を視ていると、 「”逝ってらっしゃい”、……そういうの、要ります?」 とぼけた声で聞いてくるから、 「いるに決まってんだろ」 と答えておいた。 てか本当に言いたかった。 黄泉の国って遠いと言うし、しかも宇宙を渡るんだ。 一声でも二声でもかけたいじゃない。 「…………そういうモノですか。アレ(・・)は式神ですし、ましてや鳥です。ヒトの言葉も話せないから、必要ないかと思ってました」 ”マジで?” とでも言いたげな水渦(みうず)さんに、僕は深いため息をついた。 「式神だろうと鳥だろうと、あの子は水渦(みうず)さんの為に頑張ってるの。”逝ってらっしゃい” とか ”気を付けて” とか ”おかえり” とか、言ってあげるべきだと思うよ。それに、ヒトの言葉は話せなくても、理解はしてるんじゃない? そうでなきゃ、黄泉の国まで手紙を届けてくれないよ」
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