第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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ゆるやかな弧を描き、道は天から視る視るうちに降りてくる。 ”綺麗だなぁ” と誰かが呟き、僕は声にはしなかったけど、小さく小さく頷いた。 本当に綺麗だ……金色に輝いて、道はシュワシュワ炭酸みたいに揺らめいてるの。 これに乗って逝くんだな、黄泉の国へ、5人揃って、今夜で現世を後にするんだ。 『…………本当に来てくれた……』 藤崎さんがポツリと言った。 その声は震えてて、さっきまで昭和ードではしゃいでいたのがウソみたい。 もしかしたら……不安だったのかもしれないな。 誤解とはいえ、霊達(かれら)は生者を脅かした。 罪のない篠原様は、ここに来るたび怖い思いをしてたのだ。 真相を知った時、みんなは揃って後悔し謝罪の言葉を口にしたけど……そう、泣きながら何度も何度も謝って、霊達(かれら)の中で誰1人、 ”自分達は悪くない” と……自己弁護をする(ひと)はいなかったんだ。 そんな霊達(ひとたち)だからこそ、黄泉の国は【光の道】を寄越したんじゃないのかな。 道はとうとう着地して、キラキラと輝きながら霊達(かれら)を優しく待っている。 道の上にはいつの間にそこにいたのか、鳥の子が目を閉じて羽を休ませていた。 水渦(みうず)さんはチラリと鳥に目をやって、だけどすぐに5人を視るとこう言ったんだ。 「おめでとうございます。最終的に、黄泉は貴方方を善霊と判断したようです。この道を____真っすぐ、ひたすら真っすぐ進んでください。そうすれば死者達の楽園、黄泉の国に到着します」 淡々とした話し方、ちっとも ”おめでとう” って感じじゃない。 カタイ、カタイなぁ、もう。 でもな、水渦(みうず)さんの口角が若干上に上がっているから、これでも笑顔で送り出そうとしてるのかもしれない……たぶん、おそらく、そうだといいな。 幽霊達は道の前に並んで立って、モジモジしながら次々と感謝の言葉を口にして、そして同時、篠原様への謝罪の言葉を伝えてほしいと頭を下げた。 それから少し、霊達(かれら)が黄泉に逝く前に、みんなで最後のおしゃべりをした。 黄泉の国に着いたらやりたい事がいっぱいある、5人で毎日釣りをするとか、おいしいご飯が食べたいとか、庄司さんは先に逝った犬のゴローを迎えに逝くとか……それに僕が、だったら虹の国に逝けば会えますよと教えてあげたり。 そういうの、いっぱい話して和やかムードでほんわりしたの。 そんな中、幽霊5人は改めて水渦(みうず)さんにお礼を言ったのだが…… 『水渦(みうず)ちゃん、私達の為に道を呼んでくれてありがとね』 えっと……呼び方。 水渦(みうず)さん→水渦(みうず)ちゃん(・・・)エボリューション(進化した)水渦(みうず)さんは照れるでもなくフラットに「仕事ですから」と受け流す、……が、こんなんで退くような霊達(ひとたち)じゃあない。 『もー、水渦(みうず)ちゃん、クールなんだから!』 『スマイルスマイルゥ! ニコー! ほら! ニコー!』 『でもこれが良いのよ。かわいこぶりっこはキライだもん!』 『仕事が出来てナウなヤングでパーペキだね!』 『こんな可愛い()に視送ってもらえるなんて、マンモスうれぴー!』 出るわ出るわの昭和ード。 水渦(みうず)さんのガチ引きにもめげやしない。 昭和メンズの打たれ強さはマジパネェ。
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