第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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「可愛い? 貴方、さっきから私を馬鹿にしてるんですか? こんな醜女(しこめ)に冗談でも言う事ではないですよ」 あ……ヤバ……水渦(みうず)さんの空気が変わった。 これは悪い流れになったと、僕の中で緊張が走ったのだが、御年生きていれば70代。 昭和メンズは怯みもせずに、一斉に喋りだしたんだ。 『……醜女(しこめ)って、水渦(みうず)ちゃんの事? な、何言ってるの? そんな事ないよ!』 『そうだよ! こんなに可愛いのに何言ってるんだい!?』 『俺がもっと若くて生きてたら、嫁さんになってもらいたいくらいだよ!』 『自分の可愛さを分かってない? ああもったいない!』 『あ、もしかして謙遜で言ってるんじゃないか?』 チョービックリ! みたいな感じで水渦(みうず)さんを取り囲み、囲まれた水渦(みうず)さんはこの不意打ちに固まった(怒るつもりが出遅れたっぽい)。 昭和メンズは円陣組んで褒め殺し。 完全にペースを乱され、真ん中に立つ水渦(みうず)さんは屍のようになっていた。 ため息ついて黙り込む水渦(みうず)さん。 囲む霊達(かれら)もここで一旦褒めるのはやめた、……が、天然疑惑の藤崎さんが無謀にもソロで斬り込んだのだ。 『水渦(みうず)ちゃんは自分の事が嫌いなの?』 「………………」 『ん……そっかぁ。不思議だなぁ、どうして嫌いなんだろう。水渦(みうず)ちゃんは……視た所20代でしょう? 若さがあって可愛いのに。それだけじゃない、仕事も出来るし命だって持っている。……私達は80近い幽霊だから、水渦(みうず)ちゃんも岡村さんも眩しくて仕方がないよ』 「………………」 『なにも答えてくれないの? うぅ……そんなに自分が嫌いなのかぁ……もったいないなぁ。……あのね、水渦(みうず)ちゃんは今、若さの真っ只中にいるから気付かないかもしれないけど……若さって素晴らしいよ。視てごらん、私の手。さっき水渦(みうず)ちゃんも言ったけど、枯れ木みたいでしょう? それに比べて……ほら、あなたの手はこんなにスベスベでふっくらしてる。顔だってそう。シワなんてどこにもない。……ん、ちょっと吹き出物があるけど、これだって私にしたら羨ましいよ。だってお爺さんじゃあ、カラッカラのカサッカサで脂すら出ないんだから』 「………………」 『まぁ確かに、我らがマドンナ “吉永サヨリ” には勝てないかもしれないけど、水渦(みうず)ちゃんだって負けてない。切れ長の目、ふっくらした頬、溢れる若さと強い意志、クールに視えて優しい子。本当だよ、だって……あなたは私達の為に【光の道】を呼んでくれたじゃない。そんなもの呼ばないで、この別荘から追い出してしまえば楽だったのに、そうはしなかったよね。一生懸命お手紙書いて、血判まで押してくれた。私達が成仏出来るのは水渦(みうず)ちゃんと岡村さんのおかげなの。ありがとね。なのになぁ……私達の恩人が自分の事が嫌いだなんて悲しいよ』 「………………………………、」 藤崎さんはふにゃっと笑い、細い腕を前に伸ばすと水渦(みうず)さんの肩に置いた。 幽霊だから触れる事は出来ないけれど、それでもポンと置いたんだ。 …… ………… 結局……水渦(みうず)さんは最後まで返事をしなかった。 だけど、肩に置かれた藤崎さんの、その手を振り払う事も……しなかったのだ。
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