第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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…… ………… 「無事に逝ってくれましたね」 昭和メンズを送り出し、僕らは空を視上げていた。 月の位置がだいぶ変わったな。 青みがかった満月は、優しく地上を照らしてくれる。 星屑は天いっぱいに広がって、その中の幾つかはチカチカゆっくり瞬いている。 ああ……綺麗だなぁ、ため息が出ちゃうよ。 僕の隣には、月明かりをたっぷり浴びる水渦(みうず)さんがいた。 黙ったまんまで空を見て、その横顔は心なしか穏やかだ。 仕事が一段落でホッとしたし、道を呼んでくれたコトのお礼も言いたいし……なにより月の綺麗な夜だもの。 少しお喋りしたいな、……なんてコトを考えながら、僕は話しかけたんだ。 「みんな最後は良い顔で笑ってましたね。でも……まさかなぁ【光の道】に乗った途端、顔が元に戻るだなんて……ビックリしちゃったよ」 そうなのだ。 霊達(かれら)は ”レッツラゴー!” の掛け声で、揃って道に乗ったんだけど、その途端、道は眩く光り出し、目を開けていられないほどだった。 ”眩しー眩しー” 言いながら、しばらくそうして、瞼に透ける強い光が弱まった頃、再び目を開けてみると……ビックリ仰天。 深海を思わせる(うお)ったフェイスが、優しそうな人の顔に戻っていたのだ。 「私は戻るのではないかと思っていました、」 天を向いたまま、水渦(みうず)さんがそう言った。 「そうなの? 分かってたんだ、スゴイなぁ」 感心しきりでそう言うと、 「”スゴイなぁ” って……岡村さんも知ってるはずですよね。前に志村さんから聞いたじゃないですか。黄泉の国の話を。その時にこう言ってました、」  ____黄泉の国にはオートリカバーというものがあるんだ、 ____死者の霊体(からだ)が傷付けば、 ____瞬時に傷を治してくれる、 ____【光の道】にもね、 ____オートリカバーの簡易版がついてるの、 ____黄泉のリカバーほどではないけれど、 ____不調の6割程度は治してしまうんだ、 言われて記憶を辿ってみれば……ハッ! 「そういえば言ってましたね。す、すみません、すっかり忘れてました」 そうだよ、今ハッキリ思い出した。 確かに言ってたわ。 同じ日に同じ部屋で、水渦(みうず)さんと一緒に聞いたんだった。 ああもう、僕ってダメなヤツ。 せっかく聞いた貴重な情報。 忘れてたんじゃ聞いてないのと同じじゃん。 僕本人でさえ呆れるのだ。 水渦(みうず)さんはもっとだろうな。
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