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消え入るように言った後、空を見ていた顔を下げ視線を地面に固定した。
それから……水渦さんは黙ってしまって、だけど多分、まだ何かを話したそうで、息を短く吸っては吐いてを繰り返していた。
……
…………静かだなぁ。
ここにヒトはいないから、僕らが黙ると虫の声しか聞こえない。
生者も、死者も、そのどちらもいないんだ。
誰も見ていない、誰の声もしない、こんな時間、こんなところに誰も来ない。
誰かの悪意も、誰かの嘲笑も、誰かの侮蔑もない。
今ここはアナタにとって安全で、アナタを傷付けるヒトは誰もいない。
だから、思うことがあるのなら、話したいことがあるのなら、
聞くから、僕が聞くから話してほしい、……なんて思っていると。
僕の気持ちが通じたのかは定かでないが、水渦さんが顔を上げ、小さな声で話の続きをしてくれた。
「……私は自分が嫌いです。出生も育ちも悪く、性格も捻くれているから人に嫌われます。おまけにこの容姿です。道を歩けば知らない人からジロジロ見られ、ヒソヒソと笑われる。もちろん、すべてのヒトがそうであるとは言いません。分別のある方は、それをうまく隠そうとしますから。でもね、そういうのって分かるんですよ。その方の表情、目線、口調、声のトーン、……どんなに平静を装っても……ね」
自分が嫌い……か。
これ……前にも話してくれたっけ。
あれから全然変わってない、ずっと辛いままなんだ。
人の目線が苦痛に感じる、何気ない日常すらも彼女にとっては辛いんだ。
気持が落ちる、気持ちを思うと泣けてくる……と、鼻の奥が鋭く痛んだその後、水渦さんが言葉を繋ぐ。
「ですが……今日は、この現場は違いました。あの霊達は最初から変わってた。古くさい言葉、魚の顔、老いた霊体……そんなの全く気にしてなくて自然体でした。私に何を言われてもめげないし、探る事も、怯える事も、媚びる事もしない。晒け出し、隠す本音も見当たらない。私のような捻くれ者に眉もひそめず、醜女に対して褒め言葉までいただきました。……ただの、その辺にいる平凡な女性として接してくれたんです」
そこまで言うと、ため息をひとつ。
こころなしか息は軽く、明るいまではいかないけども、なんとも言えない……子供のような顔をした。
こんな顔をするなんて……ああ……
長年の苦しみ、辛さ、悔しさ……彼女のキツさは自分を守る為の鎧なんだ。
こんな言い方、ありきたりで陳腐だけれど、でも、その鎧がなければ生きてこれなった。
大袈裟じゃなく、きっと、そうなんだ。
霊達の何気ない言葉、言動、それが水渦さんを、今夜だけ、少しだけ救ってくれた。
僕は……僕はさ、そう思ったら……どうしようもなく泣きたくなったんだ。
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