第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

71/74
前へ
/2550ページ
次へ
諦めたような目、歪ませた口元。 水渦(みうず)さんは自虐の笑顔を見せていた。 それがまた物悲しくて、鼻の奥が痛くなる。 「幼少期に先代と出会う____そんな奇跡は無かったけれど、今日会ったあの霊達(ひとたち)は、……そうですね、中々面白かったです。が、きっとこれも、岡村さんが一緒だったからなのでしょうね。私一人では、こうはならなかったと思います。幽霊に食事を振舞うなんてコト、貴方しかしないでしょうから」 パンとゼリーの事を言ってるんだ。 あれは振舞うなんて大袈裟なものじゃない、ただ……、 「ゴハンはみんなで食べたら美味しいかなって、そう思っただけですよ。死者だから生者だから、そういうのは関係なくて、ただ単に僕が一緒に食べたかっただけ。それとね、僕がいなくたって同じだと思う。あの霊達(ひとたち)なら水渦(みうず)さんと仲良くなるんじゃないかな」 「そうでしょうか、私はそうは思いませんが。岡村さんがいなかったら、私はいつも通り、感情的になったでしょう。いくらあの霊達(ひとたち)でも、負の感情をぶつけられれば態度は違ったものになったはず。…………まぁ、そんな事はどうでも良いのです。たまにはこういう現場も悪くないと……少し思っただけですから」 水渦(みうず)さんの ”少し” はきっと少しなんかじゃない。 口で言ってるだけ、本当は ”すごく” が正解なんだろうな。 「ねぇ、水渦(みうず)さん。今日の現場、気持ちが楽だったんだよね? 悪くないって思ったんだよね? じゃあさ、”たまに” なんて言わないで、これからもそういう現場にすれば良いじゃない。そりゃあ、相手がガチの悪霊だったらそうはいかないだろうけど、善霊の現場なら穏やかに送り出す事が出来るもの」 「簡単に言ってくれます。ですから、それは岡村さんが一緒にいたからです。私一人では場が凍るだけですよ」 あ……っと、語気が強くなった。 若干イライラしてるっぽい、……でももうちょっとだけ、あと少しだけ言わせてもらって良いかな。 「ううん、僕がいるとかいないとか、そんなのは些細な事だよ。藤崎さん達、水渦(みうず)さんをすごく褒めてた。可愛いくて仕事が出来る優しい子だって。それと感謝もしてたよね」 ____あなたは私達の為に【光の道】を呼んでくれたじゃない、 ____そんなもの呼ばないで、 ____この別荘から追い出してしまえば楽だったのに、 ____そうはしなかったよね、 ____一生懸命お手紙書いて、 ____血判まで押してくれた、 「……それは仕方なくです。岡村さんが【光の道】を呼べないから、」 フィッと顔を横に向け、その反論はなんだかとっても中途半端なものだった。 まぁ、そうなるよね。 僕の願いを突っぱねて、道を呼ばずに追い出す事も滅する事も出来たんだ。 それをしなかったのは水渦(みうず)さん。 彼女もそれを分かってるから、だから強く言えないの。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2369人が本棚に入れています
本棚に追加