第二十三章 霊媒師 水渦の分岐点

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「うん、僕のスキル不足を水渦(みうず)さんが補ってくれたんだ。そういうの、霊達(かれら)もみんな視てたから、だからアナタに感謝をしたの。……あのね、水渦(みうず)さん。そんなに難しいコトじゃないよ。現場でさ、怒る代わりに笑えばいいの。矢を撃つ代わりに鳥の子を空に飛ばして【光の道】を呼べばいい。キツイコトを言いそうになったら深呼吸をするんだ。こんなの印を覚えるより簡単だよ。そうやって出来る事から始めれば、次の現場も気持ちが楽になると思うのよ」 言った後、水渦(みうず)さんの顔を見た。 こういうコトを話した後に、大抵言われるこのセリフ。 ____綺麗事ですね、反吐が出ます、 出るかな? 言われるかな? 最初はビックリしたけどさ、もうだいぶ免疫も着いてきた。 おあいにくさま、へこたれないよ。 いつでも言ってオッケーですから。 なんてドキドキしてたけど、いつまでたっても言われなくって、代わり彼女は淋しそうにこう言ったんだ。 「だから……簡単に言わないでください。そんな事、出来るならとっくにしています。今日は岡村さんも一緒にいたし、たまたま上手くいっただけ。感情も、いつもコントロール出来る訳ではありません。……負の感情が昂れば制御不能になります。周りをとことん傷付けて、何もかも壊してしまう。自分じゃどうにもなりません。……だから、岡村さんもこれ以上私に関わらない方がいいですよ」 関わるな……ねぇ。 そんな寂しい顔で言われても、説得力ゼロなんですが。 「何を今更、関わりますよ。確かに、アナタがキレると厄介だし怖いと思う。でもね、ココだけの話。ジャッキーさんのガチギレの方が百倍怖いんだ。僕1回だけ見たんだけど、や、もう、アレはヤバイ、シャレにならない、目がこう殺し屋みたいになっちゃって、……って、そんな話はどうでもいいか。とにかく、不安はあるかもしれないけどやってみませんか? 今夜みたいに上手くいく日を増やすんだ。現場でさ、送り出す霊にさ、”ありがと” なんて言われてさ、その方がコッチも嬉しいじゃない、なんなら僕も手t」 “手伝います” こう続けるはずだった、……だがそれを、水渦(みうず)さんが静かに遮る。 そう、あのセリフ(・・・・・)に似た事を言いながら。 「綺麗事ですね、……でも…………ありがとうございます。ここまで言っても私と関わる、ですか。25年の人生、そう言ってくれたのは、……貴方で4人目です。まったく……愚かしいですね。私なんかに関わればロクな事が無いというのに、」 愚かしいと言いながら、伏せた目に剣はない。 そして……実はこの時、僕はめちゃくちゃ驚いていた。 僕の綺麗事(・・・)には当然、辛辣な返しがくると思っていた。 なのに違った、真逆の言葉が添えられたんだ。
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