第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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そんな話をのんびりしながら、カバンの中からマイボトルを取り出した。 ボトルの中にはレモングラスのハーブティー。 爽やかでさっぱりとして、美味しいのはもちろんだけど殺菌作用があるからね。 季節の変わり目、風邪の予防に持ってこいの一杯だ。 「ああ……おいしい」 自分の席でゴクリと飲んで、朝のハッピータイムが始った。 なんか……平和だなぁ。 大きな窓から朝の光が差し込んで、社長は懸垂(まだやってるよ)、ユリちゃんはお姫とキャッキャと遊んでる。 会社全体、霊力(ちから)を流した蔦に包まれ、結界が張られているから野良幽霊(・・・・)は入って来れない。 身内だけの気楽な空気で、なんだか眠くなってきちゃう。 と……そこに。 カチャ、 事務所のドアの開く音がして、同時「……ざいまーす」と、声ちっさ! 、そんな挨拶が聞こえてきたの。 この声はもしかして…… 「(らん)さん!」 振り向けばピッカピカの22才。 年下の優しい先輩が立っていた。 オレンジ色の明るい髪に、淡いベージュの薄手のニット、インディゴブルーのゆるっとデニム、足元は黒のシンプルスニーカー。 今日もおしゃれだなぁ。 「お、岡村さん、お、おはよ」 (らん)さんは、ほんのり耳を赤くしながら、ふにゃっと笑顔で挨拶をしてくれた。 な、なんだこりゃ……可愛いな……! 「おはよ、今日は(らん)さんも出社日だったんだね。僕、会えて嬉しいよ」 本当に嬉しい、だって久しぶりだもん。 繁忙期の最初の頃、この子の現場のヘルプに入ったあの日以来だ。 「ボ、ボクも嬉しい、……あ、し、社長、ユ、ユリさん、大福ちゃんも、おはよございまs……(ゴニョゴニョ)」 (らん)さんは小さな声で、社長達にも挨拶しつつ僕の傍に寄ってきた。 時計を見れば、現在8時29分。 相変わらず遅刻ギリギリの出社だよ(たぶん寸前まで男子更衣室にいたと思われる)。 「今日は(交通の)精算?」 僕が聞くと(らん)さんは「う、うん、」とコクコク頷きながら、上目遣いでこう言った。 「お、岡村さんがいてくれて、良かったぁ……あ、あのね、今日はずっと一緒にいてほしいの、ボ、ボクから離れないで、そ、そばにいて、」
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