第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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「会うのは2か月ぶりですね、元気でしたか?」 長方形の大きな机。 その端っこに、水渦(みうず)さんが座ってる。 そっぽを向いて目線は窓に、僕の方を見ようとしない。 はぁ……前回のツーマンセルでもそうだったよな。 あの時も2か月振りに会ったんだ。 最初はやたらと攻撃的で、だけど現場の幽霊達の、昭和なノリに搔きまわされて、最後の方は普通に話をしてくれた、……なのにだ。 あれからまた2か月経って、どうやらリセットされたみたい。 態度は硬化、よそよそしいったらないのだ。 だがしかし、こんな態度も2度目となれば、少しは慣れてくるというもの。 これくらいじゃあ驚かないし、へこたれない。 なにより僕はアナタと話がしたいんだ。 「水渦(みうず)さん、お茶はいかがですか? 実はね、1階の給湯室からポットを持ってきちゃったんだ。だからお湯も沸いてるし、あと……ほら、ティーセットもあるんだよ。あ、このセットは僕の私物ね。猫の模様が可愛いでしょう?」 返事も待たずに勝手にお茶をコポコポ注ぐ。 茶葉はブレンド、レモングラスとアップルピース。 爽やかなレモングラスにほのかな甘みのアップルピース、これがまたすっごく合うの。 酸味がなくてマイルドだから、飲めばホッとリラックス出来るんだ。 「どうぞ、飲んでみてください」 言いながら、数歩歩いてコトッとカップを机に置いた。 水渦(みうず)さんはチラリとカップに目をやって、それをジッと見つめてる。 僕が再び「どうぞ」と言うと、瞬きを2回した後カップを手に持ち一口飲んだ。 「………………おいしいです、」 声ちっさ! あまりに小さく笑いそうになったけど、笑うとまたおへそがグルグル回るかもと自粛した。 で、 「良かった。お茶と一緒にクッキーもどうぞ。これね、僕が大好きなカフェ、”sweets&cafe☆bebe”(スィーツ アンド カフェ ベベ)ってトコロの秋限定のクッキーなんだ。お芋ベースの優しい甘さで何枚でも食べれるの」 先週のお休みに、散歩がてら買っておいたクッキーだ。 おいしいお茶とおいしいクッキー。 僕ならこれでイチコロだけど、水渦(みうず)さんはどうだろう? 「…………秋限定……、これ、岡村さんが楽しみにしていた物ではないのですか?」 クッキーには手を付けず、水渦(みうず)さんは小さな声で聞いてきた。 「うん、そうだよ。僕、ベベのお菓子が大好きなんだ。季節ごとの限定品も楽しみで、毎回必ず買ってるの」 「なるほど……それなら岡村さんだけで食べてください。せっかくの楽しみを私がいただく訳にはいきませんから」 「え? なんで? そんなコト気にしなくていいのに。楽しみは誰かと一緒に分かち合う、一緒に食べたら百倍おいしい、コレ、常識! やだ、そんなコトも知らないの?」 遠慮する水渦(みうず)さんに、なんとか食べてもらいたくって、最後の方は冗談交じりに言ってみた、……すると、 「…………百倍かどうかは知りませんが……岡村さんが言った事、知識としては知っています。でも……それが私に適応されるとは思いませんでした」 俯き気味に淡々と、淋しいコトを言ったんだ。 ああ、もう……、 「あのね、そんなの当たり前でしょ。なんで水渦(みうず)さんだけ適応外だと思うかな、んな訳あるかっつーの!」 なんでか僕は半ギレで「いいから食べろ」と強引に食べさせた。 水渦(みうず)さんは目をパチパチさせながら、モグモグモグモグ咀嚼して……ゴクンと飲みこむ。
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