第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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「はい、お茶も飲んで」 なんでか仕切って、あれやこれやと世話を焼く。 クッキーを食べさせて、お茶も飲ませて、ついでだからとウエットティッシュも差し出した。 「ね、クッキーおいしいでしょ? 栗芋カボチャは秋の三大スターだもん、おいしいに決まってるよ。さて、僕も食べよーっと、(モグモグモグ)……ほら! ほらほらほら! やっぱりね、一緒に食べると百倍おいしい!」 手ぶり身振りで大袈裟に、……って、やりすぎか? でもさ、もういっそ、とことん大袈裟にしたかった。 だって思い出したんだ。 前に、水渦(みうず)さんが言ってた事を。 ____私と食事をすると味が不味くなると、 ____昔いた清掃会社で言われました、 ひどいよね……こんな事を言われたら、誰かと一緒に物を食べるの怖くなる。 だからだろうな……水渦(みうず)さんはみんなでランチに行かないで、会社に残って独りでご飯を食べるんだ。 食べられるのはごくごく一部の人だけで、ジャッキーさんは……大丈夫。 だって前に、ジャッキーさん()で打ち上げした時、一緒にシチューを食べたもの。 あの時、僕も一緒にいた、普通に食べてた。 あの時だけじゃない、神奈川の現場は夜中のカップ麺、それと、Y県の現場ではパンとゼリーを一緒に食べた。 だから僕は、僕だったら大丈夫だと思ったの。 でもダメだった、まさかまさかの条件付きで、”僕が楽しみにしているモノ” には遠慮をしちゃう、……もう、そゆのいらないのに。 いつもの強気はドコ行った。 だけど……もしかしたら、これが本来の水渦(みうず)さんなのかもしれないな。 背中を丸めてハーブティーをチビチビ飲んで、「おいしいです」と小さな声で言うような……さ。 「……岡村さんは変わってますね。私と一緒にいて嫌じゃないのですか?」 ハーブティーを飲みながら、水渦(みうず)さんがそう聞いた。 だから僕は、クッキーを食べながらこう答えてみた。 「別に、嫌じゃないですよ(モグモグ)」 「ふぅん……平気なんですね……それじゃあ、私といてイライラもしませんか?」 「イライラ? するよ、するに決まってんだろ。だってアナタ、すこぶる面倒くさいもん(モグモグ)」 なんの気なしに言ってみた。 だって本当の事だし。 当然、水渦(みうず)さんにも自覚があると思っていたから、この後のポカン顔に、僕もポカンとしたんだよ。 「……え?」←ポカン…… 「え?(モグモ……、)」←ポッカーン しばしの沈黙、僕らは互いを見合ってた。 で、今度は僕から聞いてみる。 「まさか……自分で ”面倒くさくないタイプ” とか……思ってたりする?」 もしもそうなら説教だ。 こんなに面倒くさい人、滅多にいないもん。 社長のそれとはまた別の面倒くささだ。
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