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____お姉さまを一緒にさがそう、
こう言ったのはこれで2回目。
最初に言った時、水渦さんは ”考えたい” と、話は一旦保留になった。
繁忙期中、僕らは互いに忙しくって話をする機会も作れず。
連絡先も知らないから、長い保留になっていた。
あれから2か月、随分時間が経ったけど保留解除になるのだろうか。
水渦さんはクッキーを食べたあと、ハーブティーをゴクリと飲んだ。
そして小さく息を吐き、両手でカップを持ったまま、僕に向かってっこう言ったんだ。
「さっき……岡村さんは、私の事を ”面倒くさい” と言いましたよね。よく言います。貴方も充分面倒くさい方ですよ」
困ったような、泣き出しそうな、なんとも言えない表情だ。
圧なんかぜんぜん無い、僕を見る目が赤くって、ついでに言うなら頬も赤い。
なんか……様子が変だな……だけど……無理もないか。
春に言ってたじゃないか、”姉に会うのが怖い” って、”自分を恨んでいるはず” だって。
そうだよね、怖いよね、でもさ。
「僕も ”面倒くさい” のか、……ん、そうかもしれないね。こんなのただのお節介だ。でもゴメン。それでも僕はお姉さまを探したい。探して見つけて、お姉さまに会いに行ってもらいたいの。……ねぇ、水渦さんはどうなの? 前に ”考えたい” って言ってたよね」
会いたくないのかな。
怖いかもしれないけど、大事な家族じゃないか。
「…………そうですね、確かに言いました」
そう言ったっきり、水渦さんは黙り込み、持ったままのカップを見つめる。
ともすれば無言が延々続く気配で、それがなんだかもどかしくって、僕の方から聞いてみたんだ。
「答えは……出たの?」
「……………………」
「まだ……迷ってる?」
「……………………」
「会うの……怖い?」
「……………………怖い」
「そっか……怖いか」
唇を震わせて、”怖い” と呟く水渦さんは、ひどく頼りなく見えた。
これは……難しいかな、会ってほしい、やり直してほしい、そう思うのは勝手な押し付けなのかな。
独りの食事、独りの生活、人の目を怖がって色んな人に傷付けられて。
彼女のキツさは自己防衛でもあるんだよ。
やられる前に先にやる、そういう生き方が染みついて、だけどそれは彼女自身も傷付けて、この悪循環を断ち切るには、唯一の家族で深い愛をくれた人……お姉さまに会うしかないと思った。
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