第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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…… ………… …………ゆっ…… ………………くり……と ……………………ゆっくりと……目を開けた、 「……うぅ……身体……痛……、」 独り言ち、顔を上げると薄暗い。 3階の研修室。 そこにある長テーブルで、いつの間に僕は突っ伏していたようだ。 いつからこうしていたのだろう? たぶん……けっこう前からだ。 だって身体がミシミシ痛い。 同じ体勢が長かった証拠だ。 あ……水渦(みうず)さんは? ふと思い立ち辺りを見ると……いた。 同じ長テーブル。 僕の席から2つ離れたその場所で、突っ伏して眠っている、……のだけど、あんな薄着で寒くないのかな? 10月の夕方は、昼間に比べて気温がガクンと下がると言うのに、彼女はブラウス1枚だ。 おかしいな、日中と恰好が違う。 黒色の地味なパーカー、上着を着ていたはずなのに……このままじゃ風邪をひく。 どこに上着を置いたんだと、席を立って探そうとした。 眠る彼女を起こさないよう、静かに腰を浮かせたその時。 僕の肩からパーカーがずり落ちた。 「これって……」 床に落ちたパーカー。 拾い上げて見てみると……水渦(みうず)さんので間違いない。 もしかして僕に……掛けてくれたのか……? 自分だって寒いだろうに、風邪をひくかもしれないのに、それなのに…… 窓の外は赤紫の夕焼けで、もうあと少しで陽が沈む。 時計を見れば退社時間が迫ってて、慌てた僕は水渦(みうず)さんの肩を揺らした。 「ねぇ、起きて。そろそろ5時になる、」 声をかけると水渦(みうず)さんは顔を上げ、 「す、すみません、私、寝ちゃった」 恐縮顔であやまった。 「ううん、良いんだ。それより時間、急いで帰る準備しないと」 僕が言うと彼女も時計を目視して、「そうですね」とだけ短く言った。 それから駆け足。 簡単に部屋を片付け、僕はポットと食器をまとめて持った。 そして部屋をあとに、階段を2人揃って降りていく。 で、 「僕は食器を洗ってくる。水渦(みうず)さんは明日と明後日、有給取るって社長に言いに行ってきて」 1階廊下で早口に指示を出す。 一瞬、水渦(みうず)さんは驚いたけど、すぐに頷き事務所のドアに向かっていった。 慌ただしいな。 本当はもっと、ちゃんと説明したいけど、なんてたって退社時間が迫ってる。 セキュリティを掛けられたら出られなくなっちゃうからね。 あとでキチンと説明する。 会社を出て、ゴハンを一緒に食べながら、……いや、食べた後もだ。 今夜このまま会いに行こう。 僕、分かったんだ。 お姉さまが、今どこで何をしてるのか。 そういうのぜんぶ、視えたんだ。
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