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◆
東京都N市。
H駅に到着した。
満員近い電車の中。
人が多くてあまり話が出来なくて……けれど、行き先がN市であると伝えると、水渦さんは目を見開いて固まった。
聞けば、かつてお姉さまと暮らしていた街、それがN市なのだという。
駅から遠いアパートで、古くて床が軋む部屋。
そこで2人は慎ましくも幸せに暮らしていた。
だが、お姉さまの結婚が決まり、自分は捨てられると思い込んだ水渦さんが、その全てを壊してしまったのだ。
そこから家族は散り散りとなった。
水渦さんを庇う為、莫大な借金を背負う事になったお姉さまとはそれっきり。
どこで何をしているのか、それさえも分からずに……いや、水渦さんの霊力なら視る事も探す事もたやすい。
ただ、自分のした事の後悔と、お姉さまへの罪悪感で視る事が出来ないでいた。
そのお姉さまは数年の時を経て、再びN市に戻っていたのだ。
馴染みのある土地だからだろうか、それとも____
水渦さんは、駅のロータリーをゆっくりと見渡していた。
彼女もまた、この地が懐かしいのだろう。
僕はと言えば……水渦さんを放ったまんま、スマホを使って鬼検索をかけていた……
「えっと……霊視で視たお店の名前で検索……と、どれどれ…………あ! ヒットした! んで……ここに行きたいんだから……H駅からルート検索もして……と、……んー……歩いて20分くらいか……けっこうあるな、でも……そのくらい歩いた方が時間もちょうどいっか」
ブツブツと独り言ち、検索で調べた住所を地図アプリに反映させて、それを手に持ち、キョロキョロしている水渦さんに声をかけた。
「水渦さん、検索したらお姉さまの所まで歩いて20分くらいだよ。さっそく行こう。ココまで来て ”ココロの準備ガー!” とか言わないでよ? ぐずるようならおんぶして連れてくからね」
『うっなーーーん!』←おんぶー!
三尾の猫又、お姫が援護射撃をしてくれた。
水渦さんはラブリーすぎる大福に、”うっ” と軽く怯んでる。
あーあー、アレね。
春にさ、お姫がキレて、水渦さんに鼻フックをしたのよね。
本能的に、お姫には敵わないと思っているのか、あれ以来、猫又限定で毒を吐かない。
「おんぶって……そんな事はしなくていいです。大丈夫です、覚悟を決めました。遠くから覗く覚悟ですけど」
青い顔した水渦さんが、震える声でこう言った、……って、遠くから覗く? 遠くから? はいぃ?
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