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「え? なに言ってんの? 会わないの? 会いに行くんでしょ? 遠くからとか、なにハードル下げてんのよ」
秒でツッコミを入れた、当然だ。
水渦さんはいつものあのキッツーイ態度も言動もなにもかも無くなっちゃって、子供みたいにアワアワしてる。
「ハ、ハードル、下げてないですよ。わ、私は、今日会うなんて一言も言ってませんし」
「はぁぁぁ? ヘタレなのぉぉぉ? そゆのいらないから、連れてくから、会わせるから! さ、行くよ!」
手を取ってグイッと引っ張り歩き出そうとしたけれど、水渦さんはその場に踏ん張り抵抗中。
「ま、ま、待ってーーーー! 本当に待って! 大体迷惑ですよ! 今から行ったら8時は過ぎます! 夜遅くに、しかも突然の訪問なんて!」
「ダイジョウVだよ! むしろ夜の方が良いんだ。お店の営業時間だもん。絶対に会えるもん」
「…………お店?」
「そう、お店。お姉さまね、借金を返済したあと、この土地でお店をやってるみたいなの。小料理屋さんで、お酒と料理がおいしくて、女将さんも優しくて面白いって評判みたい。ネットのレビュー、絶賛すごかった」
「姉が女将……」
「うん、だからとにかく行ってみようよ。お店の前まで行ってさ、本当に無理だと思うなら今夜は帰ろう。でも、もし勇気が出たら……その時は会って話をすればいい。大丈夫、僕もずっと一緒にいるから」
そう言うと、水渦さんは時間をかけて考えた末、小さく小さく頷いた。
じゃあ行こうか。
お姉さまの経営されてるお店。
名前は……そう、【ラブフラワー】だ。
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