第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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◆ 地図アプリを信じるならば、H駅からお姉さまのお店、”ラブフラワー” まで徒歩20分のはずだった…………が、到着したのは30分後、10分もオーバーした。 その原因はナビに難あり……ではなく、チキンと化した水渦(みうず)さんのせいだった。 途中彼女は、やれ足が痛くなっただのコンビニに寄りたいだの、理由をつけちゃあ、到着時間を遅らせようと必死だったからである。 そのたび僕が、 「じゃあ、おんぶしよっか?」 と聞くと、 「…………ぃぃです……」 と半べそになるもんだから、なんだかイジワルをしている気分になった。 そんなこんなでやっとのコトで、”ラブフラワー” のある商店街に着いたのだ。 ネットによると、この商店街の最奥にお姉さまの小料理屋があるらしい。 商店街の入口には、時代を感じる大きなアーチが建っていて、そこには【はやぶさ商店街】と書いてあった。 はやぶさ? はやぶさって……小惑星探査機? って、そんなワケないよな。 たぶん、鳥のコトだと思うけど、なんだって ”はやぶさ商店街” なのかな? きっと意味があるんだろうけど、んー、想像がつかない。 その【はやぶさ商店街】。 アスファルトの大きな歩道の左右には、たくさんのお店が並んでいた。 この時間では、どこもかしこも後片付けを始めているけど、パッと見だけでも八百屋さんに酒屋さん、惣菜屋さんに豆腐屋さん、お肉屋さんはグラム売りをしているみたいでガラスのショーケースがあった。 この周辺のご近所さんは、みんなココに買い物に来るのかな? ココにくればなんでも揃う、……って、本当になんでもあるな。 食べ物屋さんが並ぶ中、突如服屋さんが現れた。 あ、……あの人、店員さんかな? 派手な女性が店頭のマネキンを片付けている。 その女性は、黒色のロングドレスを着てるんだけど……ちょ、なに、あの柄……リアルなタッチで竜の刺繍がしてあるよ。 しかもワンポイントではない、ロングドレスの全体に描かれているのだ。 大きな竜が身体に巻き付く大胆な柄、その竜が肩の所でクワッと口を開けていて……えぇ……マジか。 通りすがりで店の中をチラッと見れば、似たような服がたくさんあった。 あまりに派手だ……こういうの、一体誰が買うんだろ? 看板には【ブティック彩】とあるけれど、竜のドレスのあの人が……彩さんなのだろうか? 目が釘付けになる……が、あんまり見てたら失礼だから、すぐに前を向いたけど……なんだろ、派手なだけじゃなくってさ、気の強そうな雰囲気が弥生さんに似ている気がする。 …… ………… 物珍しくてキョロキョロしながら、どんどん前に進んで行くと…………あった! あそこじゃないの!? 商店街の最奥、進行方向右側。 そこに一軒の小料理屋があった。 そんなに大きなお店じゃない、だけどなんだか目を引いた。 白木の外壁。 横開きの格子の扉は上品で、隙間から、お日様色の優しい光が漏れていた。 漏れてくるのはそれだけじゃない。 グラスを重ねるキレイな音、楽しそうな笑い声、そういうのも一緒にだ。 入り口には橙色の暖簾が掛かり、白抜きのポップな文字で【ラブフラワー】と描いてある。 ここで間違いないようだ。 暖簾の文字を確かめたあと、 「”ラブフラワー” 、この中にお姉さまがいるはずだ。……水渦(みうず)さん、会いに………………行けそう?」 本当は、”会いに行くよ!” と、言うつもりだった。 緊張してるだろうから、少しふざけて和まそうと思ってさ。 もちろん、無理強いはしないよ。 もしもまた、”ココロの準備ガー!” と言い出したなら、呆れた振りしていつまでも付き合うつもりでいた。 でも……言えなかった。 それはあまりにらしくない……そう、水渦(みうず)さんは、もうすでに泣いていた。 唇を震わせて「少し待って、少しだけ」と呟きながら、僕の手をギュッと握ったんだ。
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