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____期待の新人が聞いて呆れます、
____如何なる事があったとしても、私は貴方を助けません、
____黙ってろ、ド新人、
なんて、……いつものキツさといつもの強気が完全に崩壊した。
グズグズと泣きながら、まるで……僕の手を命綱だと言わんばかりに必死になって握ってる。
僕の知っている水渦さんじゃあない。
きっとそれだけ、会いに行くのが怖いのだろう。
「……お、岡村さん、すみません」
目を擦り涙を拭いて、水渦さんがそう言った。
「ううん、あやまらないで。水渦さんのタイミングで良いから。勇気が出るまで、いくらでも付き合うから」
笑顔を作ってそう答えると、お姫も『うな』と一言鳴いた。
水渦さんは僕と……それから大福をみて、「……がとう」と消え入る声で呟いたっきり、そのまま黙って【ラブフラワー】に目をやった。
……
…………
それから……僕らは道の端っこで、手を繋いだままお店の暖簾を眺めてた。
商店街の最奥だから人もあんまり来なくって、立っていても不審がられる事はない。
時刻はそろそろ21時になるとこだった。
「水渦さん、寒くない?」
夜も更け、少し気温が下がってきたから気になって聞いてみる。
「……大丈夫です。岡村さんこそ寒いんじゃないですか? ……すみません、私に意気地がないばっかりに」
「僕は平気だよ。男は基本、体温が高いんだ。それと……さっきから言ってるけど、”意気地がない” とか、そんなコトは気にしなくて良いの。それよりさ、僕、気になってるコトがあるんだよね。お姉さまのお店、なんで【ラブフラワー】なんだろう。外観は和の雰囲気なのにチョット合わないなぁって。あ、別におかしいって言ってるんじゃないんだけどさ」
僕に悪いと気ばっかりを遣うから、別の話を振ったんだ。
実際、少し気になっていた。
小料理屋なら、和風の名前が合いそうなのに。
暖色に下がる暖簾。
水渦さんはそれを見ながら、昔の記憶を僕に教えてくれたんだ。
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