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僕は慌てて「怪しい者ではありません」と言ったけど、ぜんぜん信用してくれない。
「じゃあ何してるんだよ。この時間、開いてる店は小料理屋だけ。だけど客って感じじゃないよな。店にも入らずコソコソと立ち話。どう見たって怪しいだろ」
クィッと斜めに顎を上げ、職質みたいに聞いてくる。
迫力にタジタジするけど僕らは決して怪しくないし、悪い事ももちろんしない。
ただ……事情がちょっと複雑だから、知らない人に詳しい話をしたくない。
だからボンヤリ、ゴシャゴシャと濁しながら言ったんだ。
「僕達は【ラブフラワー】に用があって来たんです。ちょうどこれから行くところでした」
嘘じゃない。
是が非でも行きたいと思ってる。
まぁ、その ”これから” が、5分後なのか1時間後か、はたまた数日経った後かは分からない。
水渦さん次第だもん。
言ったあと、頼むコレで納得してくれ! と願ったけれど、そう上手くはいかなかった。
「これから行くところ? 本当かよ、取ってつけた感じがするな。やっぱり怪しい」
「本当ですって! 僕達、ここの女将さんに会いに来たんです!」
「愛華に?」
「そう!」
「……兄さん、愛華の知り合い?」
「………………そ、そうです」
「ふぅん。ホントか? 嘘ついてないか?」
「えっと……つ、ついて……ついて……にゃふ、」
「はぁぁ!? “にゃふ” ってなんだよ! 肯定か? 否定か? わっかんねー! ハッキリ言わないのがやっぱり怪しー!」
アイター!
やっちまったー!
我ながら ”にゃふ” の意味が分かんない!
や、でもさ、僕は実際、お姉さまに会った事がないだもん!(霊視はしたけど)
意味不明な回答に、彩さんはますます僕らを怪しんで、声もだんだん大きくなって、ちょっとした小騒ぎになった。
僕はもう、こんな日になんてこったと汗を掻き、そのうち騒ぎに気づいたのだろう……突如、【ラブフラワー】の扉が開いた。
ガラガラッ!
「ちょっとぉ! なんの騒ぎぃ?」
言いながら出てきたのは和服姿の一人の女性。
長い髪をアップにまとめ、白い肌にうっすら赤みがさしている。
あ………………と、思った。
同時、僕の手が痛いくらいに握られた。
隣を見れば水渦さんが、僕に隠れて震えてる。
出てきた女性は彩さんに気がつくと、
「彩さんどうしたのぉ? おっきな声がぁ、お店の中までぇ、聞こえてきてぇ、心配でぇ、出てきたの!」
そう言いながら駆け寄った。
てか……クセが強いな。
区切りが多くて語尾が伸びてる……、独特の話し方だ。
とは言っても、これくらいならぜんぜんノーマルカテゴリだけど。
なんてったてって、ウチの会社にはキーマンさんがいるからね。
彼以上に独特な人は、そうそう滅多にいないのだ。
「愛華ごめん、騒がしちゃって! いやさ、店の前で怪しい奴らを見つけたの。ほら、そこにいるあの2人。男の方は愛華に用があるって言うけど、愛華知ってる?」
彩さんは鼻息荒く、女性を……いや、愛華さんを守るように、くっつきながらそう聞いた。
聞かれたその人。
愛華さんはこちらを向いて、僕の顔をジッと見た……が、小首を傾げて首を振る。
その次は……そう、その次は身体を傾け、僕の後ろを覗き見る。
薄明かりの店の前、愛華さんは目を細めたり見開いたりと、忙しそうにジッと見て……
……
…………
そして、
「………………み、みぃちゃん……?」
掠れた声、愛華さんがそう呟いた。
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