第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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僕は慌てて「怪しい者ではありません」と言ったけど、ぜんぜん信用してくれない。 「じゃあ何してるんだよ。この時間、開いてる店は小料理屋だけ。だけど客って感じじゃないよな。店にも入らずコソコソと立ち話。どう見たって怪しいだろ」 クィッと斜めに顎を上げ、職質みたいに聞いてくる。 迫力にタジタジするけど僕らは決して怪しくないし、悪い事ももちろんしない。 ただ……事情がちょっと複雑だから、知らない人に詳しい話をしたくない。 だからボンヤリ、ゴシャゴシャと濁しながら言ったんだ。 「僕達は【ラブフラワー】に用があって来たんです。ちょうどこれから行くところでした」 嘘じゃない。 是が非でも行きたいと思ってる。 まぁ、その ”これから” が、5分後なのか1時間後か、はたまた数日経った後かは分からない。 水渦(みうず)さん次第だもん。 言ったあと、頼むコレで納得してくれ! と願ったけれど、そう上手くはいかなかった。 「これから行くところ? 本当かよ、取ってつけた感じがするな。やっぱり怪しい」 「本当ですって! 僕達、ここの女将さんに会いに来たんです!」 「愛華に?」 「そう!」 「……兄さん、愛華の知り合い?」 「………………そ、そうです」 「ふぅん。ホントか? 嘘ついてないか?」 「えっと……つ、ついて……ついて……にゃふ、」 「はぁぁ!? “にゃふ” ってなんだよ! 肯定か? 否定か? わっかんねー! ハッキリ言わないのがやっぱり怪しー!」 アイター! やっちまったー! 我ながら ”にゃふ” の意味が分かんない! や、でもさ、僕は実際、お姉さまに会った事がないだもん!(霊視はしたけど) 意味不明な回答に、彩さんはますます僕らを怪しんで、声もだんだん大きくなって、ちょっとした小騒ぎになった。 僕はもう、こんな日になんてこったと汗を掻き、そのうち騒ぎに気づいたのだろう……突如、【ラブフラワー】の扉が開いた。 ガラガラッ! 「ちょっとぉ! なんの騒ぎぃ?」 言いながら出てきたのは和服姿の一人の女性。 長い髪をアップにまとめ、白い肌にうっすら赤みがさしている。 あ………………と、思った。 同時、僕の手が痛いくらいに握られた。 隣を見れば水渦(みうず)さんが、僕に隠れて震えてる。 出てきた女性は彩さんに気がつくと、 「彩さんどうしたのぉ? おっきな声がぁ、お店の中までぇ、聞こえてきてぇ、心配でぇ、出てきたの!」 そう言いながら駆け寄った。 てか……クセが強いな。 区切りが多くて語尾が伸びてる……、独特の話し方だ。 とは言っても、これくらいならぜんぜんノーマルカテゴリだけど。 なんてったてって、ウチの会社にはキーマンさんがいるからね。 彼以上に独特な人は、そうそう滅多にいないのだ。 「愛華ごめん、騒がしちゃって! いやさ、店の前で怪しい奴らを見つけたの。ほら、そこにいるあの2人。男の方は愛華に用があるって言うけど、愛華知ってる?」 彩さんは鼻息荒く、女性を……いや、愛華さんを守るように、くっつきながらそう聞いた。 聞かれたその人。 愛華さんはこちらを向いて、僕の顔をジッと見た……が、小首を傾げて首を振る。 その次は……そう、その次は身体を傾け、僕の後ろを覗き見る。 薄明かりの店の前、愛華さんは目を細めたり見開いたりと、忙しそうにジッと見て…… …… ………… そして、 「………………み、みぃちゃん……?」 掠れた声、愛華さんがそう呟いた。
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