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こちらからお店を訪ねる____
という当初の予定と違ったものになったけど、今、僕らの前には愛華さんが立ってる。
その距離目測2メートル弱、すぐ目の前だ。
「……みぃちゃん、……ねぇ、みぃちゃんでしょう?」
愛華さんは震える声で繰り返し、一歩、また一歩と前に出ながら僕の後ろを覗き込む。
水渦さんは返事をしなかった。
僕の手を握ったまんま、身を固くして息を殺しているようだ。
怖いんだろうな、……だから返事も出来ないでいる。
でも……でもさ、お姉さま、すぐに気づいてくれたじゃない。
”みぃちゃん” って、水渦さんの事でしょう?
薄暗い道端で、僕の後ろに隠れているのに、離れてから5年も月日が経っているのに……それでも、すぐに気づいてくれたじゃない。
お姉さまも同じ気持ちでいたんだよ。
妹に会いたいと、そう願っていたんだよ。
だからお願い、勇気を出して。
「水渦さん、」
そっと後ろを振り返り、小さな声で名前を呼んだ。
が、水渦さんは激しく首を振るだけで、声を出す事も、顔を上げる事もしなかった。
どうしたものか……このままじゃあ、せっかくこんなに近くにいるのに、話すら出来ないよ。
僕は途方に暮れかけて、とりあえず、水渦さんの震える背中をさすっていると……
「……あのぉ、」
もうだいぶ近くまで来た、愛華さんが僕に話しかけたんだ。
「は、はい!」
ちょっぴり慌てて返事をすると、愛華さんは僕の後ろをしばらく見つめ、そのあと、僕の目を見てこう言った。
「あの、あなたの後ろにいるのは……みぃちゃ、……あ、……んと、小野坂水渦ですよね……?」
”みぃちゃん” と言いかけた愛華さん。
額には玉の汗を浮かべてる。
「はい、小野坂水渦さんで間違いないです。……あ、申し遅れました。僕は岡村英海と申します。水渦さんと同じ会社の後輩です。…………あの、さっきはお騒がせしてすみませんでした。僕達、今日はあなたに会いに来たんです。水渦さんのお姉さま、愛華さんに、」
僕が言うと、愛華さんは唇を震わせた。
一瞬で涙が溜まり、瞬きするたびボタボタ下に落ちていく。
「そぉ……そぉなのぉ……そうなんだぁ……や、やっぱりぃ、みぃちゃんだったんだぁ……」
次から次へと溢れ出す、涙を両手でゴシゴシ拭って愛華さんはクシャリと顔を歪ませた。
そしてもう半歩。
前に出た愛華さんは、妹が顔を出すのを待っている。
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