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◆
「あんたらぁ! 今夜はお開きだよっ! とっとと店出て家に帰んな!」
開け放たれた格子の扉の真ん前で、腰に手をやり仁王立ち。
彩さんは、店で飲んでるお客さんに ”今すぐ帰れ” と声を張り上げそう言った。
え、ちょ、大丈夫なの?
そんなコト言って、クレームにならない?
僕は内心ヒヤヒヤだった。
だってさ、お金を払ってお酒を飲みに来てるのに、それをさ、今すぐ帰れだなんてさ。
お酒も入ってほろ酔いで、怒る人もいるんじゃないかと気を揉んだ。
が、そこから僅か10分経たない素早さで、店で飲んでた全員が揃って外に出てきたの(いいのか!?)。
出てきたのは老若男女……でもないか。
老中男女と言うべきか(老年&中年って意味ね)、アダルティな男性女性が10人弱。
ガヤガヤと、ソワソワと、そして漏れ出すワクテカと、……ん、みなさん笑顔で怒っていそうな様子はない。
で、
「よーし! 全員出てきたな、感心感心。あんたらも店の中で聞き耳を立ててたんろう? 今夜は愛華にとって特別な日だ。なんたって5年前に生き別れた、わ、別れた(グズ……)……い、い、妹……!(グズ……グズグズ!) い、妹が、あ、あ、会いに来てくれたんだよぉ!(涙ツー)だ、だから、私らがジャマしちゃダメなんだ、(涙ツゥゥゥ)み、店なんかとっとと閉めて、つ、つもる話もあるだろうから、(グズズズ)水入らずでさ、ゆっくり、話をさせてあげたいじゃない! うわぁん!(涙ダバァァ!)」
途中から涙ぐんでた彩さんは、みなさんにそう言い終えると、堰を切って泣き出した。
ああ、そうか……それでこの行動だったのか。
最初、彩さんは僕と水渦さんを怪しがっていた。
だけどそれは誤解であると、5年前に生き別れた妹が、自分を探して会いに来てくれたのだと……彩さんに、愛華さんが説明したの。
それを聞いた彩さんは、僕らにめちゃくちゃあやまって、同時、”良かったねぇ” とえぐえぐしながら泣き出したんだ。
彩さん……コワイと思ったけど良い人じゃないか。
良い人なのは彩さんだけじゃなかった。
せっかく飲んでいたというのに、途中で切り上げ出てきたみなさん。
この方達は商店街の酒屋さんとお肉屋さん、豆腐屋さんに総菜屋さん……と、みなさん曰く、”身内の面々” なのだそうだ。
彩さんの読み通り、お店の中で聞き耳立てて、事情は7割把握済み。
彩さんに言われるまでなく、帰るつもりでいたらしい。
ただ、帰る前に。
商店街のみんなの娘、愛華さんの妹が見たい! とワクテカがダダ洩れなのだ。
「愛華ちゃん、良かったなぁ!」
「妹がいるなんて知らなかったよ!」
「名前はなんて言うんだ?」
「愛華の妹なら俺らの娘だな!」
ニコニコニコニコ、
それはもう嬉しそうな顔をして、娘が増えたと笑ってるんだ。
そんなみなさんに……水渦さんは大いに戸惑っていた。
いつもの強気はどこへやら。
みなさんが何か言うたびオロオロしちゃって、愛華さんの背中に隠れてちっちゃくなってる。
愛華さんは泣きながら笑ってて、
「彩さん、みんな、ありがとう、ありがとねぇ。愛華ぁ、すっごくすっごく嬉しいよ、だってぇ……ずっと、ずっと、ずぅっとぉ……! みぃちゃんに……会いたかったんだもの」
そう言ってからクシャッと笑い、そしてまた泣いたのだ。
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