第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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◆ 「あんたらぁ! 今夜はお開きだよっ! とっとと店出て家に帰んな!」 開け放たれた格子の扉の真ん前で、腰に手をやり仁王立ち。 彩さんは、店で飲んでるお客さんに ”今すぐ帰れ” と声を張り上げそう言った。 え、ちょ、大丈夫なの? そんなコト言って、クレームにならない? 僕は内心ヒヤヒヤだった。 だってさ、お金を払ってお酒を飲みに来てるのに、それをさ、今すぐ帰れだなんてさ。 お酒も入ってほろ酔いで、怒る人もいるんじゃないかと気を揉んだ。 が、そこから僅か10分経たない素早さで、店で飲んでた全員が揃って外に出てきたの(いいのか!?)。 出てきたのは老若男女……でもないか。 老中男女と言うべきか(老年&中年って意味ね)、アダルティな男性女性が10人弱。 ガヤガヤと、ソワソワと、そして漏れ出すワクテカと、……ん、みなさん笑顔で怒っていそうな様子はない。 で、 「よーし! 全員出てきたな、感心感心。あんたらも店の中で聞き耳を立ててたんろう? 今夜は愛華にとって特別な日だ。なんたって5年前に生き別れた、わ、別れた(グズ……)……い、い、妹……!(グズ……グズグズ!) い、妹が、あ、あ、会いに来てくれたんだよぉ!(涙ツー)だ、だから、私らがジャマしちゃダメなんだ、(涙ツゥゥゥ)み、店なんかとっとと閉めて、つ、つもる話もあるだろうから、(グズズズ)水入らずでさ、ゆっくり、話をさせてあげたいじゃない! うわぁん!(涙ダバァァ!)」 途中から涙ぐんでた彩さんは、みなさんにそう言い終えると、堰を切って泣き出した。 ああ、そうか……それでこの行動だったのか。 最初、彩さんは僕と水渦(みうず)さんを怪しがっていた。 だけどそれは誤解であると、5年前に生き別れた妹が、自分を探して会いに来てくれたのだと……彩さんに、愛華さんが説明したの。 それを聞いた彩さんは、僕らにめちゃくちゃあやまって、同時、”良かったねぇ” とえぐえぐしながら泣き出したんだ。 彩さん……コワイと思ったけど良い人じゃないか。 良い人なのは彩さんだけじゃなかった。 せっかく飲んでいたというのに、途中で切り上げ出てきたみなさん。 この方達は商店街の酒屋さんとお肉屋さん、豆腐屋さんに総菜屋さん……と、みなさん曰く、”身内の面々” なのだそうだ。 彩さんの読み通り、お店の中で聞き耳立てて、事情は7割把握済み。 彩さんに言われるまでなく、帰るつもりでいたらしい。 ただ、帰る前に。 商店街のみんなの娘、愛華さんの妹が見たい! とワクテカがダダ洩れなのだ。 「愛華ちゃん、良かったなぁ!」 「妹がいるなんて知らなかったよ!」 「名前はなんて言うんだ?」 「愛華の妹なら俺らの娘だな!」 ニコニコニコニコ、 それはもう嬉しそうな顔をして、娘が増えたと笑ってるんだ。 そんなみなさんに……水渦(みうず)さんは大いに戸惑っていた。 いつもの強気はどこへやら。 みなさんが何か言うたびオロオロしちゃって、愛華さんの背中に隠れてちっちゃくなってる。 愛華さんは泣きながら笑ってて、 「彩さん、みんな、ありがとう、ありがとねぇ。愛華ぁ、すっごくすっごく嬉しいよ、だってぇ……ずっと、ずっと、ずぅっとぉ……! みぃちゃんに……会いたかったんだもの」 そう言ってからクシャッと笑い、そしてまた泣いたのだ。
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