第七章 霊媒師休日

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月曜日の9時過ぎという時間帯は人の数もまばらで、朝の通勤時間帯のような足早に歩く人もいない。 いるのは犬を連れたお婆ちゃんに、大学生くらいの女の子達、それに宅急便の屈強なお兄さん。 この時間、主婦のみなさまは掃除や洗濯で大忙しなのか(僕の適当な掃除とはレベルが違いそうだ)、そのくらいの年齢の女性の姿はない。 ああ、それにしても……桜の花がきれいだなぁ。 空気は冷たいけど日差しはポカポカ暖かいし、なんだか平和だなぁ……なんて思いながら、たまに立ち止まっては桜や空の写真を撮る。 「あ、キレイに撮れた。これ社長にラインしとこ」 って、もう。 なんで送る相手が社長なんだよ。 ああ、彼女でもいればなぁ。 前の彼女に振られて以来、僕に恋人はいない。 まぁ、ここ半年ほど無職だったしそれどころではなかったんだけど。 てか、これからもし出会いがあっても、 「岡村さんって仕事なにされてるんですか?」 「え?僕?霊媒師!」 これ……めっちゃ引かれる気がするんだけど大丈夫か? やっぱり最初のうちは「技術職です」で通した方が無難だろうか? いや、なに考えてるんだ、もし最初にそんな事言って後から霊媒師だってばれたら、余計ややこしくなるじゃないか。 そもそも霊媒師って営業職とか販売職に比べて身近じゃないだけで、決して隠さなくちゃいけない職業じゃない……ない……そうなんだけど……やっぱり女性はそういうの恐がっちゃうよねぇ……。 って、ああ、もう! せっかく楽しく散歩してるのに、こんな事考えるのはよそう。 大体、出会ってもいなければ近々出会う予定もない、妄想の中のみに存在する女性に対してあれこれ悩むのはあまりにも馬鹿げている。 今後、奇跡でも起きてそんな女性と出会った時に改めて悩む事にしよう。 よし、気を取り直して散歩の続きを楽しむぞ。
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