第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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食事を終えてお腹も落ち着き、愛華さんが熱いお茶を淹れてくれた。 僕らはそれを啜りつつ……なんとなくの沈黙……の後、水渦(みうず)さんがおずおずと…… 「………………姉ちゃん、………………」 消え入りそうな声だった。 ”姉ちゃん” と呼んだけど、その後が続かない……が、それでも愛華さんは嬉しそうだった。 カウンター越し、手を伸ばして妹の髪を撫ぜる。 「……みぃちゃん、もっとよく顔を見せて、……元気だった? 独りで泣いてなかった?……みぃちゃん……ずっと心配だった、会いたかった……ありがとね、探してくれて、会いに来てくれて……本当なら、お姉ちゃんから会いにいければ良かった。探したの、みぃちゃんの事、……でも、見つける事が出来なくて……ごめんねぇ……情けないお姉ちゃんを許してねぇ」 涙を落としてあやまって、愛華さんは一層妹の髪を撫ぜた。 優しく、時に髪を()くように、大事に大事に撫でつける……水渦(みうず)さんは撫ぜられれば撫ぜられるほど、どんどん顔を歪めていって…… 「ち、ちがうよ……姉ちゃんは、な、なにも悪くない……」 ボタボタと涙を落として歯を食い縛る、水渦(みうず)さんは激しく横に首を振る。 「わ、悪いのは私、……ぜんぶ壊しちゃった、姉ちゃんの大事なもの、わ、私が……ぜ、ぜんぶ……仕事も、結婚も、私が奪っちゃった、」 「みぃちゃん……」 「そ、……それだけじゃないよ、お金……私のせいで借金まで負ったのに……ねぇ、なんで怒らないの? 会えて嬉しいけど、……わ、私は、ゆ、許されない事、したのに、な、なんで、なんにもなかったみたいに、責めもしないで、怒ってるはずだよ、恨んでるはずだよ、なのになんで? なんで怒らないの? 昔からそうだった、姉ちゃん、私が何しても怒らない……!」 後半、水渦(みうず)さんは言葉を荒げ、さらにボタボタ涙を流す。 僕はそれを切ない思いで見つめていた。 何か言ってあげたい……と思うけど、今、彼女が求めているのは僕の言葉じゃないんだよ。 愛華さんは涙の跡をつけながら、困ったように笑った。 「みぃちゃんは……怒ってほしいのかな?」 「……! 怒ってほしいとかじゃなくて、怒ってるはずなのに、なんにも言わないから、」 ずっと……後悔してたから、ずっと自分を責めてきたから、だから、罰してほしいと思ってるんだ。 愛華さんに会えた事、それは当然嬉しいのだろう。 でもきっと、自分のした事、取り返しのつかない酷い事、それに対して自責の念が強すぎて、手放しに喜ぶ事が出来ないでいる。 どうしたら良いんだろう。 もういっそ、愛華さんが怒ってくれたらおさまるのだろうか、……と、何も出来ない僕は黙って姉妹を見つめていたのだが……ここで、愛華さんが動いた。
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