第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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「みぃちゃん!」 大声で妹を呼びカウンターをくぐり抜けると、床をドスドス踏み鳴らす。 ンバッ! と両手を大きく広げて着物の袖を(ひるがえ)し、その姿は水渦(みうず)さんの式神の、鳥の子を思わせた。 「ね、姉ちゃん……、」 大きな身体で迫りくる、姉の姿に一瞬怯んで椅子から降りた妹は、首をすくめて目を瞑る。 怒るのか、責めるのか、一体どうするつもりだろう。 妹は罰されたいと望んでる、姉は、どうしたいのか。 「みぃちゃん、」 今度は静かに名前を呼んで、広げた両手を勢いよく振り上げた後、それをまたクロスに重ねて振り下ろす。 「………………ぐぅ、……ね、ねえちゃ、」 妹は……むぎゅっと潰されていた。 姉の……大きな身体に力強く抱きしめられて、交差の両手は妹を離さない。 「みぃちゃん、みぃちゃあん、違うんだよぉ、悪いのはお姉ちゃんなのぉ、あの時……怖くなったんでしょう? お姉ちゃんが結婚したら、独りになっちゃうってぇ、」 「……………………」 「ごめんねぇ、ごめんねぇ……! 怖かったよねぇ、お姉ちゃん、みぃちゃんを驚かそうと思ってぇ、結婚しても3人で住めるアパート、見つけてから言おうと思ってぇ……みぃちゃんはそんな事知らないから……見捨てられると思ったんでしょう? ご、ごめんねぇ。怖かったよねぇ、悲しかったよねぇ……施設で育って親もいなくて……独りになる不安も恐怖も分かってたはずなのに……これからもずっと一緒だよって、すぐに言うべきだったのに……お姉ちゃん、結婚に浮かれてたんだぁ……一番にみぃちゃんの事考えなくちゃいけなかったのに……だから、悪いのはお姉ちゃん……みぃちゃんはなんにも悪くないんだよぉぉ」 「………………ねえちゃん……」 愛華さんはぐしゃぐしゃに泣いていた。 大きく顔を歪ませて、愛華さんこそ後悔と自責の念を色濃く見せて、ギュウギュウと妹を抱きしめていた。 「それにね、……もし、もしもだよ。あの時の事、みぃちゃんが悪いとしても、お姉ちゃん……怒れないよ、……だって、だってぇ、み、みぃちゃんはぁ、か、家族だもん、……可愛くて可愛くて可愛くてぇ……仕方がないぃ……たった一人の……妹だものぉぉ……!」 そこまで言うと愛華さんに限界がきた。 嗚咽を漏らし叫ぶように泣き続け、水渦(みうず)さんを離さなかった。 抱きしめられる妹は、息が苦しいのか、時折変な声を出す……が、それでも、姉の身体を離そうとはしなかった。 むしろ逆で、両手を伸ばして震える背中にしがみ付く。 「ね、……姉ちゃん、ねえ……ねえちゃん、ご、ごめんね、ありがと、ごめんねぇ」 うわ言みたいに何度も言って、 いつまでたっても離れずに、 姉妹はまるで、 5年の月日を埋め合うように、 強く、強く……抱き合っていた。
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