第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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普段から自分のコトを探してた、そう言われて耳まで真っ赤な水渦(みうず)さんは、愛華さんにも同じコトを聞いた。 「姉ちゃんはどこに住んでるの?」 「お姉ちゃんのオウチはねぇ、お店(ここ)から近いんだぁ。歩いて10分かからないの。……昔、みぃちゃんと住んでいたアパートからも近いんだよ」 「そうなんだ……懐かしいな、あのアパートはまだあるの?」 水渦(みうず)さんは目を細めている。 当時の事を思い出してるのだろうか。 愛華さんもおんなじだ。 やっぱり目を細め、一呼吸置いてからこう言った。 「うん、あるよ。お姉ちゃんが住んでるマンションから見えるんだぁ。朝起きて窓を開けるたびに見てる、…………あのね、これはね、偶然じゃあないの。あのアパートの近くに住みたくて、それで今のマンションを選んだの」 ピンポイントで選んだって事? どうして? 姉妹で住んでた思い出のアパートだから? 僕の頭に疑問符が湧き上がる。 同じ疑問を水渦(みうず)さんも感じたようで…… 「なんでわざわざ……?」 探るようにそう聞くと、愛華さんは眉毛を下げてモジモジしながら言ったんだ。 「ん……あのね、さっき言ったでしょう? お姉ちゃん、みぃちゃんの事を探したけど見つけられなかったって。だからだよ、……お姉ちゃん、みぃちゃんにどうしても会いたかったんだぁ。…………5年前の事があって……何年か、地方の旅館で住み込みで働いてたの。それで……その、…………そう、色々と整理が着いて、旅館を辞めて……次はどこに住もうかと考えた時、N市が良いなぁって、」 ”色々と整理が着いて”……と言うのは、おそらく借金の事なのだろうな。 ストレートにそう言えば水渦(みうず)さんが気にしてしまう、そう思って言葉を濁したのかもしれない。 愛華さん……住み込みで働いたと言っていたけど、慣れない土地で苦労がたくさんあったはずだ。 その事は、カケラも言わないんだな。 「みぃちゃんと住んだ街。ここに戻って夢だったお店を開こう、お店の名前を【ラブフラワー】にして頑張ってたら、いつかみぃちゃんが見つけてくれるかもしれない……それに賭けたの。それが無理なら……無理でも、もしかしたらこの先、2人の思い出がいっぱいつまったアパートを、みぃちゃんが見に来るかもしれない。そう思って、あのアパートが良く見える部屋を探したんだぁ。窓からみぃちゃんを見つけたら、すぐに走って行けるようにって。お姉ちゃん、ばかだからそれくらいしか浮かばなかったの、」 肩をすくめて ”えへへ” と笑う。 愛華さんは恥ずかしそうにしてたけど、水渦(みうず)さんは笑ってなくて、 代わり、瞬きひとつで涙が床まで落下した。
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