第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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曖昧に笑いつつ、僕は水渦(みうず)さんに目配せをした。 テレパシー第二段、”ちょっと! どうする? 霊媒師だって言う?” と送ったつもりでいたんだけどさ。 カケラも届いてないのか、水渦(みうず)さんは口開けっぱのキョトン顔。 僕がなにを言わんとしてるか、まったく分かってないみたい。 で、で、 「仕事はね、……(ゴソゴソゴソ)」 言いながら自分のカバンに手を突っ込んで、ジャジャーンと出したは会社の名刺。 あ、そうなんだ、そういう感じで良いんだ。 水渦(みうず)さん、迷うコトなく霊媒師だって言うみたい。 「姉ちゃん。これ……会社の名刺」 水渦(みうず)さんが手渡すと、途端、愛華さんの頬がバラ色になった。 「みぃちゃんの……名刺? …………わぁ……わぁ! わぁぁ! すごいねぇ……! 名刺持ってるなんてえらいねぇ! どうしよう、胸がドキドキしちゃう! えっと……”株式会社おくりび” ……良い名前、それから…………ん? んん? 霊媒師……?」 前半の喜びようから一転、最後は尻すぼみになった。 手にある名刺をジッと見て、”霊媒師……” と呟いている。 もしかして……胡散臭いと思わせちゃったかな……? 「姉ちゃん、そうだよ。私ね、この会社で霊媒師をやってるの。今年で5年目なんだ」 水渦(みうず)さんが補足説明をした、……愛華さんは、そんな妹と名刺を何度も見比べた。 そして……おずおずとこう聞いた。 「霊媒師って……お祓いしたりするの?」 「うん、お祓いしたり成仏させたり、幽霊相手の仕事なの」 「そう……みぃちゃん、昔からオバケが視えるって言ってたよね。……ねぇ、大丈夫なの?」 「大丈夫ってなにが?」 「ん……だって、みぃちゃん、小さい頃よく泣いてたじゃない。オバケがイジワルする、襲ってくるって」 「ああ……懐かしい。そんな事もあったね。施設にいた頃でしょう? あの頃、誰も私の話を信じてくれなかった。姉ちゃんだけだよ、信じてくれたのは。姉ちゃんに幽霊は視えないのに、それでもホウキを持って追い払ってくれたよね」 「……ふふふ、そうだったねぇ。お姉ちゃん、みぃちゃんの言う事はぜんぶ信じてるもん。嘘だなんて思わなかった。ただねぇ、お姉ちゃんはオバケが視えないからねぇ……ホウキ、当たってなかったかもしれない」 「あはは、それがそうでもなかったんだよ。姉ちゃん、私がドコ視てるかよく見てたから、ホウキ、ちゃんと当たってた。それで幽霊逃げてったもの」 「そ、そうだったの? 良かったぁ……! みぃちゃんをイジメるヤツは許さないんだからっ! ……それで、今は大丈夫なの? 霊媒師なんて……オバケにイジメられてない? 怖いのに無理してるんじゃないの?」 ブハッ! とココで吹き出しそうになった。 水渦(みうず)さんが霊にイジメられる? んな訳ない。 この人、霊相手ならガチで強いから。 だけど……愛華さんからしたら心配なんだろな。 不自然にモゴモゴしてる、そんな僕を横目でチラッと見た後に、水渦(みうず)さんは愛華さんにこう言ったんだ。 「大丈夫、心配しないで。いじめられてないから。……私ね、今の会社……結構気に入ってるんだ。私みたいなひねくれ者に、優しくしてくれる人がいるんだよ、……信じられないよね」 チラッ____と、水渦(みうず)さんが僕を見た。 ジィッ____と、愛華さんも僕を見る。 ついでにお姫もあくびをしながら僕を視た。 みんなから注目されて、なんとなく笑ってしまう。 僕が笑って、釣られて姉妹も笑い出し、【ラブフラワー】は優しい空気に包まれた。
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