第二十四章 霊媒師 水渦の選択

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水渦(みうず)さんは黙り込んでいた。 表情はさっきと一転、ひどく硬い。 そんな妹を愛華さんは滝汗で見つめていた、…………沈黙が、肌に刺さる。 大丈夫かな……水渦(みうず)さん、今なにを考えているんだろう? やっと会えたお姉さま。 恨み言など一切言わず、妹に会えた事を心から喜んでいる。 だからこそ、もう二度と離れたくない……そう思って、一緒に住む事を提案したのだ。 だがそれは姉妹だけで暮らすんじゃない。 愛華さんの婚約者さんも一緒だ。 5年前の再現とも言えるこの状況、……違うのは、愛華さんの気持ちを知っているか知っていないかだ。 当時は、結婚すれば自分は見捨てられると思っていた。 が、そうでないと知った今、水渦(みうず)さんはなんと答えるのか。 沈黙が続く。 水渦(みうず)さんは床を見つめ黙ったままだ。 愛華さんはしきりに汗を拭いている。 大福はカウンターに寝そべりながら毛繕いの真っ最中。 まったく、お姫は呑気だな(激カワイイけど)。 でも、でもさ、猫又が呑気でいられるのなら、事態はそう悪くないのかもしれないぞ(と、思いたい)。 それに今の水渦(みうず)さん、ジャスミンの香りこそしないけど、腐敗臭もしていない。 という事は、抱いているのは少なくとも負の感情ではないという事だ。 どうしよう……僕から何か話してみようかな。 いつまでもこのままじゃあ、水渦(みうず)さんもそうだけど、愛華さんもかわいそうだ。 きっと、3人で住みたいと言うのに、たくさんの勇気が必要だったはずだもの。 「あの、……」 僕も勇気を振り絞り、言いかけたその時だった。 ガラッ、 お店の扉の開く音、それが突然聞こえたんだ。 振り返るとそこには……背の高い細身の男性が立っていた。 年は僕と同じくらい。 スーツを着込んで、手には紙袋を持っている。 えらく緊張した面持ちだ。 この人……もしかして。 「本橋さん、」 掠れた声。 愛華さんがそう呼ぶと、男性は軽く手を上げた。 そうか……この人が本橋さんなんだ。 本橋さんは意を決したようにお店の中に入ってきた。 途中で僕と目が合うと小さくお辞儀をしてくれた、そして。 「愛華、」 あ……呼び捨てだ、でもイヤな感じはしない。 「本橋さん、その恰好は……?」 愛華さんはスーツ姿の婚約者を上から下まで何度も見ながらそう聞いた。 「や、やっぱりオカシイか? 普段スーツなんか着ねぇもんな」 質問に答えながら、本橋さんは顔を真っ赤にさせていた。
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